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パリ ゲイ術体験記 vol.39「仏人連れて日本アホツアー」

ただいま2024年の5月下旬。
ピアノに向かう日々から素人ボランティア•ツアーコンダクターに一時変身した私は、合計9人でのパリ発日本ツアーの真っ只中である。
東京滞在で始まった旅は、続いて関西圏を廻ったあと九州は別府と長崎を訪問、そして再び東京という15日間のツアーである。
日本初上陸の人ばかり。

過去にもフランスから日本、またその逆パターンのグループ旅行を何度も企画して(正確には、させられて)素人ツアーをやった経験があるので、その大変さは多少なりとも理解して臨んだつもりだったけれど、それにしても今回のメンバーには全くやられた感しかり。
仲良しのA君の数年来の頼みであったし、参加者も彼のパートナーや両親や親戚筋で、全く面識の無い人は3人だけだったから軽く考えていたのがそもそもの間違いなのだった。
パリでは、軽くつきあえる気さくな人…と思っていた人だが、いざ旅行が始まってみるとA君のパートナーもパパも親戚筋のオバハンも実は筋金入りのゾンビだったことが発覚したのだった。

まずは出だしから、パリからの飛行機を少しでも安い日に乗りたいと勝手に3日間3便に分かれての東京到着である。
連日羽田や成田に2人3人と迎えに出向くこっちの身にもなるべし…と私はしょっぱなから不満気味。
よって帰りも全く同じパターンのバラバラ帰国。

それでも彼らにとっては初めて訪れる極東の憧れの国ジャポンであるから、小グループだからこそ出来そうな個人の自由さも含めかつ興味を誘うツアー予定表を組んでいた私だけれど、観光する先々でまずは個人的な小言を聞く仕事から始まる。
ゾンビA 「美術館見学に2時間は少なすぎるわよ。
                 私は文化人なのよ!」
ゾンビB 「東京といえど緑豊かな森くらいはある                      でしょ?高層ビルの都庁なんかより、そ                     っちの方を選んでほしかったわ」
ゾンビC 「神社仏閣なんて幾つ見ても同じような                        ものだから、日本に数少ないキリスト                        教の教会こそ見るべきものじゃないか                        い?」

答えても仕方がないようなフレーズには「はぁ..」か「あっそ」とだけのみ答えるのが重要なポイントで、まともにこれらの話につきあっていては半月間もアテンドする身がもたないのである。

自己主張だけは世界一優秀であろうフランス人は、己の主張はとんちんかんだろうが低級であろうが臆面なく躊躇せずに言うのだけれど、他人の意見や行動には注意深くないのも彼らの特徴である。
よく日本人が言うところの「空気を読む」とか「謙虚に..」なんて技は、彼らにやらせてみたら超絶技巧 … いや絶対無理な話に思える。

私がツアーのアテンドとして歩く時には、グループでの最高齢あるいはおみ足の強くない人のテンポで歩くように心がけている。だがそんな私を待たずに見えないような先まで道順も知らないのに行ってしまうメンバーがいたり、そこそこ集まって歩いてくれたらいいのに先頭から最後尾までが100mを超す長さまでなる事もしばしば。
全員がいるかを絶えず確認しながら歩く私の首は、振り向き過ぎのせいかむち打ち症みたいな辛さを呈してくる。
その横を先頭で旗やこうもり傘を立てて涼しい顔で歩いてゆく中国人ツーリスト達。その団体がやたら優秀そうに見えたりするのだった。

そして、この種のツアーの中で何が一番大変かというと何といってもお食事タイムである。
今回も9人一緒の席がいいと訴えるけれど、そんなテーブルは簡単にあるわけではない。
3人×3テーブルに分かれる時は、メニューや食べ方等の説明で廻らなくてはならない私には食事をしている暇など無いも同然。
日本の飲食店のメニューは何処でも種類が豊富でウキウキするが、それらを全部説明してくれと躊躇わずに言ってくる鬼畜 …
言いはしないが、美味しそうなものをたまには写真だけで選ぶトライをしてみてよ~ しかも英語のメニューまでくれたじゃないの! ..が私の本音である。
私は全員が幕の内弁当を食べてくれている夢のようなシーンを想像しながら、つくづくメニューの豊富さが恨めしくなっている。

ある日の夕食は、前日の夜中に長時間かけてネットで探して予約したレストランがあるからと言ったにも係わらずに各々は「今夜はすき焼きがいいなー」「しゃぶしゃぶの方が外せないよ」「たまには日本でのフレンチにしよう」…と始める。
ついていけない私は「それならば今夜は皆さん自由にお好きなお店でお好きな食事にしましょう!」と提案すれば「ここで私たちを見捨てるなんて酷いっ!」と即座に火を吹くゾンビ達なのだった。

結局は予約を入れていた居酒屋に落ち着いて宴が始まって、早々に日本酒で出来上がり気味の某ゾンビさんは、美味しい冷酒だからこれは自分のおごりだと言って2瓶追加。
ややこしく面倒な各々の会計額をやっと割り出した精算の時になって、自分の会計分だけが他より高い事に不思議がる某ゾンビさんは「なんで自分だけこんなに高いのー!?」と言いだす始末。2瓶は貴方からの驕りだと言われたのでそのように計算したと言えば「そんな事言ったかね…??」と私に猜疑の目つき。

今日でツアーの半分がやっと終わって、明日は別府温泉に向かう。
全裸で温泉に入ったり和室の布団で寝る初体験が待っているから、全員でひと騒ぎかひと悶着起こるのは目に見えているようなもの。
もう頭の疲れがピークに達した感ある私は、別府の地獄巡りでの血の池地獄で熱湯に皆が落っこちるシーンを想像してみたりして鬱憤晴らしをしているという、実は少しゾンビな私なのであった …

              

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