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【短編ホラー小説】死者の村 

田舎の村、名も知れぬ小さな集落が山深い森の中に佇んでいた。そこは、他の村と同様に古くから伝わる不気味な言い伝えが存在する場所だった。その言い伝えは、月夜に山に響く不気味な囁き、そして「死者の村」と呼ばれていた。村人たちはその名を口にすることさえ忌み嫌っていた。

ある日、村に住む若者の一団がその言い伝えに興味をもった。彼らは夜の闇に包まれた山に行くことを決め、不気味な囁きを聞くために山に足を踏み入れた。若者たちは冒険心と興奮に胸を膨らませ、不安を感じつつも歩みを進めていった。

深夜、月明かりが彼らの進む小道を照らし、静寂が広がる。足跡の音だけが森に響き、一団は次第に山の奥深くへと進んでいく。しかし、進むにつれて空気が変わり、不気味な雰囲気がただよい始めた。

「この先、気味が悪いな…」
若者たちの中にも不安の表情が広がる。

すると、突如として囁きが聞こえる。まるで山々が言葉を交わしているかのような微かな声が耳に届いた。
「来るな、来るな…」
と、不気味な言葉が繰り返される。

若者たちは戸惑いながらも進む。すると、道の先に一軒の古びた家が現れる。その家は村の者たちからは忌み嫌われ、触れてはならないとされていた。しかし、若者たちは興味本位でその扉を開けることを決意した。

古びた扉がゆっくりと開かれると、その中には薄汚れた布団や古びた家具が散らばり、何十年も触れられていないような雰囲気が漂っていた。すると、奥の方から不気味な声が聞こえてきた。

「よく来たな、若者たちよ。」
と、声の主は一人の老婆だった。彼女は部屋の片隅で不気味な笑みを浮かべていた。

「これから君たちに、死者の村の秘密を教えてやろう。」

老婆は若者たちに言い伝えを語り始めた。死者の村はかつて栄えていたが、ある日突然村人たちが消え、以後村は死者たちの村となったという。そして、その死者たちは今もなお村に留まり、生者との境を越えて囁きを聞かせ、訪れるものを追い返していたのだという。

若者たちは戦慄しながらも老婆の話を聞き入れた。すると、老婆は彼らに村の秘密を知ることの危険性を説き、すぐに村を去るよう忠告した。

「死者たちは新たな仲間を求めている。君たちもその仲間にされてしまう前にこの場を去りなさい。」

若者たちは戸惑いながらも老婆の忠告に従い、その家を後にした。しかし、外に出ると山の中に囁く声が増しており、彼らの背後には影が忍び寄っているような錯覚に襲われた。

「早く帰りなさい。ここには居てはいけない。」

老婆の言葉が彼らの耳に残り、彼らは全速力で山を下りていった。だが、死者たちの囁きは彼らを追い続け、山から出ることができたのは一部の者だけだった。

帰還した若者たちは村の者たちにその出来事を伝えたが、彼らは村から追放されることとなった。以後、彼らは死者たちの呪縛から解放されないまま、他の村に流れる身となった。

死者の村の言い伝えはますます村人たちにとって禁忌となり、その存在が村の中で忘れ去られていった。しかし、山深い森に佇む古びた家は未だに立ち、時折その扉がゆっくりと開かれ、囁きが夜空に響いているとされている。

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