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『響け!ユーフォニアム3』12話までの感想・『WHITE ALBUM2』との相似についての曲解

はじめに

ユーフォ3期12話の原作改変で沸いてるインターネットを見て、こうしちゃいられないと急いで誓いのフィナーレで止まっていたシリーズを履修してきた。
最終回リアタイは間に合わなかったし録画も忘れたので配信が始まるまでまだ見れないという。
それにしても今シーズン、これまでよりもさらに輪をかけて人間関係の機微が細かく、一気見はかなりカロリーが高い。
毎週丁寧に追ってたファンに比べると、無理やり類型に当てはめることでようやくキャラの心情に到達し得る読み方しかできなかったと感じる。



一話に感じた既視感

タイトルにも書いてある通りぶっちゃけると、このシーズンはかなりWA2だなと思った。しょっぱなからそれを確信させたシーンがあって、久美子が渡り廊下でユーフォを吹いていた転校生の黒江真由と遭遇するシーン。もうこれ完全に屋上で歌う雪菜を見つけるシーンと一致している。
まあこの時点では世迷言だったんだけど、段々「ほんとに似てね?」と思い始めた。

小木曽雪菜は嫌いだが、このCGは全エロゲの中でも屈指の美しさだと思う。


キーパーソンであり解読困難な新キャラ 黒江真由

まず黒江真由について整理しておきたい。今シーズンは一年生の動乱など脇道もあるものの、基本的に黒江真由をきっかけに起こる部内の変化が主軸と言える。しかし彼女の行動原理には不可解なところが多く、どこまでが本心かつかみかねる言動もあって非常に理解を難しくさせる。
パーソナリティはこうだ。

・黄前久美子と同じくユーフォ奏者。
・強豪校出身で演奏技術は卓越している。(久美子とは互角かやや上回るような描写)
・自分の存在が部内の予定調和を乱すことを恐れており、北宇治で努力し続けたメンバーが大会で吹くべきだと考えている。
・上記を理由に吹奏楽部に入るか決めかねていたが、部長である久美子の平和主義的なスタンスを信頼して入部を決める。
・写真は好きだが、自分が写真に写るのは嫌(これに関してはほんとに何故なのかわからない)。

ここで大事なのは、彼女が久美子の人となりで入部を判断したことにある。この時点での彼女の久美子評は表面的なところしか見れていないので、かなり空気を読んでくれる性格に映ったと想像できる。
しかし吹奏楽部内の指導方針はドラムメジャーの麗奈によるスパルタ色が強く、久美子も全国金という高い目標からそれに同調しており、真由視点ではギャップが存在する。
そしてこのギャップは転校生のみならず、一年生にとっても当然生まれるものであるから序盤でのトラブルに繋がってくるわけだ。

シーズン後半では、コンクールのソロパートをめぐって、「多くの部員に望まれている久美子が吹くべき」と主張する真由、「ソリストは実力によって選ばれるべき」とする久美子の対立に焦点が当たる。


掲げた「実力主義」と黄前久美子のエゴイズムの乖離

では、久美子視点についても考えてみる。
毎年恒例の挙手制多数決で全国大会金賞を目標に設定する北宇治。
(これは挙手制というのが本当に良くないと思う。同調圧力で本意ではない回答をしてしまう部員は絶対に出てくるからだ。製作陣もそれに自覚的なのか、最終的に全員が満場一致するまでの様子は非常におどろおどろしく、後出しだ。これで脱落者が最後まで出なかったのは流石にファンタジーと言わざるを得ない。映像としては映えないがどう考えても記入投票にするべきである)
やはりというか、3話では厳しい指導に戸惑い退部一歩手前の一年生が出現するのだが、久美子による対面での説得はどこか論理が破綻していて、マルチ商法の洗脳を見ているかのようだった。

久美子「ごめんね……。ううん……、ありがとう!サリーちゃんのおかげで、まだ一人も辞めてないよ。全員いる、一年生だって抜けてない」
(中略)
沙里「でも……じゃあ、このままでもいいってことですか」
久美子「それだよねえ……。もちろん、そうは思わないよ。吹奏楽部ってさあ人多いし、初心者も、経験者もいて、考え方も色々あって。どれか一つだけが正解って見つけるのは、すごく難しいなって。そうなんだよね。だから、部長って多分、そんな、みんなの色んな気持ち、纏めるためにいるんじゃないかって思う。だから、そう。全部、私のところに持ってきて」

響け!ユーフォニアム3 第三回 みずいろプレリュード

退部を考える人間に対してこのように人情に訴えかける話法を用いるのは、「実力主義」「全国大会金賞」を標榜する北宇治の部長としてはズレを感じる。
「誰一人落伍者を出さない」という久美子独自の目標による動きではあるのだが、これは部内全体の統一意志である結果第一の考え方に沿うものではない(そもそも意志の統一が弱いという指摘もできるが)。
この論法では、仮に「全国に行かなくてもいいから楽しくやりたい」という空気に全体が傾いてしまった場合それも飲み込まざるを得なくなる。久美子個人のエゴイズムが既に北宇治とは独立したものになっていることを示唆するやりとりではないだろうか。
実際、部内が割れる事態に直面するシーズン中盤で久美子は為す術がなく、ここでも最終的に人情に訴えたまとめ上げを行っている。実力主義を掲げる部活のトップとしてはあまり褒められた動き方ではない。

では、久美子の根底にあるものは一体なんなのか。
鍵になるのは高坂麗奈との関係性である。


前提となる重要なエピソード

久美子の行動原理として大きな割合を占める出来事が、1年生時の中世古香織と高坂麗奈、双方のトランペット奏者によるソリスト争いだ。
上級生の支持の厚い中世古と、実力でそれを上回っていた下級生の麗奈の対立はそのまま部内全体に波及する事態になった。この時久美子は友人の立場で麗奈の背中を押し、結果としてソリストには麗奈が選ばれた。
多くの部員の期待を裏切ってまで勝ちに拘る。
この経験こそが北宇治の実力主義や、「実力でソリストが選ばれるべき」という久美子の思想に繋がっている。
翻って3年生編の今シーズン。黒江真由との対立では、久美子は度々この出来事を回想している。

脳裏に浮かんだのは、あの時のことだった。あれは決して間違ってなんかいない。けれど、どう話せばそれが伝わるのか。

響け!ユーフォニアム3 第六回 ゆらぎのディゾナンス 

麗奈の背中を押したことは、より高い結果を出すためには間違いでは無かった(ゆえに黒江真由の主張は否定されるべきだ)と述懐する。しかし、当時を知らない黒江真由には伝える術を持たないという。
ここには錯誤がある。
一年生時と今回のオーディションでは両者の立場が微妙に異なるのだ。
1年生とはいえ今後も北宇治で演奏し続ける高坂麗奈と、3年から転校してきて今年吹いたら終わりの黒江真由では誰かの出場機会を奪うことの重みが違う。
久美子による再三の「今の北宇治に誰が出場するかで不満を持つ者はいない」という説得が真由に響かなかったのは、自分が部外者である=「北宇治の人間なら誰が選ばれても文句が無くとも、自分は違う」という意識が払拭されていないからだ。(これは久美子も悪くて、真由からあがた祭りに誘われた時、彼女は咄嗟に嘘をついて断っている。これでは疎外感も覚えるだろう。転校当初部員と写真に写りたがらなかったのも、そのような後ろめたさからだとすれば得心がいく。)
久美子と真由の対話は常にディスコミュニケーションの連続であるが、そもそも100%の理解を得たとしても、そこには埋めがたい溝がある。
真に必要なのは真由を一刻も早く北宇治の仲間として浸透させる気配りであって、それこそが部長の役目であるはずだ。
しかし久美子は真由と必要以上に親密になることを避け、北宇治の伝統、そして自身のこだわりである規範を飲ませることばかり考えている。


誰に対しての「誠実」なのか

久美子がここまで意固地になるのは、それだけ過去の経験に絶対の正義を確信しているから?
私は違うと思う。
彼女が何よりも大事にしているのは、麗奈との対等な関係ではないだろうか。
真由の主張は、端的にあの時の自分と麗奈の選択を否定しているし、まして「高坂さんとソリ吹きたいでしょ」と神経を逆なでするようなことまで言う。
久美子が真由に反感を抱いたのは、麗奈と積み上げてきた三年間を軽視し「オーディションを実力で勝ち抜き麗奈と肩を並べる」というそれまで当然行われてきた努力に水を差すことにあると考える。
あくまで大会で結果を残すという目標は副産物のようなもので、彼女の本心は遥か高みを目指す孤高の存在である高坂麗奈に寄り添うことであり、その麗奈が結果を追い求めているからこそ、久美子もまた同じ志を抱いたのではないか。
故に、人生を賭して音楽の道を志望する覚悟までは持たない彼女は音大に行かず、高校で終わりにする選択をしたと考えられないだろうか。

久美子と真由のすれ違い、部内の足並みの揃わなさ、部長としての久美子の至らない動き。これらは、いくら久美子が北宇治の実力主義を標榜しても、彼女自身が心からその思想を持っているわけではないという欺瞞の表出であるように思う。そして、黒江真由ただ一人がこの欺瞞を見抜いていたのではないか。

真由「私が選ばれて嬉しい人なんて、本当にいるのかな」
久美子「いるよ!」
真由「誰?」
久美子「……部員全員」

響け!ユーフォニアム3 第六回 ゆらぎのディゾナンス 

真由「最後に高坂さんと一緒にソリを吹きたい。それが久美子ちゃんの本心でしょ」
久美子「私の本心は、公平にオーディションで競い合いたい。それが正しいと思って三年間頑張ってきたから」
真由「それは本心じゃないよ」

響け!ユーフォニアム3 第十一回 みらいへオーケストラ

そして、私が最も『WA2』を感じたのがこの関係性にある。
まるで、かずさを想う気持ちを裏切れないあまり雪菜に応えられない北原春希のようではないか。
黄前久美子は北原春希で、高坂麗奈は冬馬かずさで、黒江真由は小木曽雪菜なのだ!(発狂)
12話のオーディションで麗奈が断腸の思いで真由に一票を投じるシーンなんか、実質coda浮気ルートのかずさだろ。

久美子は麗奈を裏切れないから、真由の提案を突き放し続けるしかない。
麗奈は久美子以上に音楽を裏切れないから、久美子より上手い人がいたらそちらしか選べない。
真由は音楽も人間関係もどちらも大事だから、誰も不幸にならない方向に皆を誘導したい。

私はWA2アンチ寄りだからこそ、あの作品の要素を最高硬度までブラッシュアップさせたかのような内容に震えている。
武田綾乃先生、WA2好きなん?


おわり

結局WA2との関連について述べている割合がめっちゃ少なくなっちゃった。
あと久石奏も地味に杉浦小春っぽいと思った。

↓フォロワーに切られそうだからTwitter現Xでは発信できなかった投稿。

画質悪すぎだろ


更新履歴
0702 11話の引用を追記。誤字を修正。
0704 黒江真由と写真についての文章を少し追記。



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