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”お勉強が出来ただけの人たち”が満足できない世界

気になったポストがあった。

エリサラ(エリートサラリーマン)は経営者に向いていない。

といった内容だ。

簡単に言えば、「お勉強のできるエリート君」よりも「昔ヤンチャで、後に真面目になった気概のある若者」の方が経営者として成功しやすい、といった趣旨の投稿である。

確かに、言われてみれば経営者にはそんなイメージがある。

なぜだろうか。

考えてみればこの論調は昔からある。

例えば、昔流行った「マネーの虎」シリーズに登場する「虎」の社長たちなどはまさにこの経営者イメージそのものだ。

インテリよりも叩き上げで、学歴はなくとも地頭がよく、ここぞで勝負できる根性があって失敗を恐れない人たち。

学歴=成功に対するカウンターパンチとしても実にわかりやすい構図であった。


エリサラは経営者に向かない。プライドが高い。頭がかたい。根性がない。泥臭いことができない。

30半ばの雇われ医者の立場から私見を述べたいと思う。
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医者も一般にはエリートと呼ばれる職種の1つである。

周りを見ても、幼少期から”お勉強”に熱心であったものがほとんどである。
ごく稀に全く勉強していない完全なる天才も紛れてはいるが、

「あなたが学生時代に最も頑張ったことはなんですか?正直に答えなさい。」

と問われれば、

「勉強です。」「大学受験です。」

と答える人が大半であろう。そんな世界だ。無論、僕自身もそうである。

そんなお勉強しか取り柄のないような人たちが、今度は大学で「医学のお勉強」を6年間みっちり行い、医師免許を取って病院で働く。

社会人になってからは途端にブルーワーカー丸出しの長時間ブラック労働を強いられるわけだが、恐ろしいことにその仕事の傍らで「論文執筆」や「学会発表」などのお勉強を自己研鑽として行なっている。

今までは、その「お勉強で勝ち取ったモノ」「お勉強を続ける姿勢」に対して「高い給料」「社会からの尊敬」といったインセンティブがあった。

長時間労働だろうと責任が重大だろうと、インセンティブに満足して生涯を医業一
筋で全うしていく医者が多かったのも納得である。

だが、今は少々様子が違う。

現在の日本には悲しいことに昔のようなインセンティブを出す経済的余力はない。ニュースの報道を見ても、どちらかと言えば「医者の功績」より「医者の不祥事」を報じるものが目立つ時代だ。

加えて、日本の医療制度は既に限界を迎えつつあり、日本自体が浸水している沈没船である。「医者だから」とそれなりの船室に泊まっていても、船ごと沈んでしまえば意味がない。

「このまま雇われて働いているだけで良いのか?」

多くの医者が疑問を感じ始めている。

そして、ついに僕の身の周りでも、動き始める人がぽつりぽつりと出始めた。

「もうこのままではダメだ。リスクを取って勝負に出るしかない。」


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先輩のA先生の話をしようと思う。

A先生は僕の3つ上の先輩で非常に優秀な医師であった。いわゆる「お勉強が得意なだけ」と言った雰囲気ではなく、優秀なことに加え、見た目もよく、コミュニケーション能力も高く、手技も上手かった。

僕は直属の部下ではなかったが、よく気にかけてもらいことあるごとに手取り足取り指導してもらった。

体力もあり、当直明けでも夜遅くまで論文を書いたり学会発表の準備をしていた。休日も重症患者の様子を見にきては、そのまま病院に残って自己研鑽している姿をよく見かけた。

僕が病院を去って数年後、風の噂で退職されたと聞いた。

次はどこの病院にいったのか、と聞くと、どうやら医者を辞めて一般企業に就職したとのことだった。

「医者を辞めて企業に転職?!」

聞いた当初は混乱した。

その後にお会いする機会があり、話を聞くと、自身でビジネスを始めようと思い、ノウハウの学ぶために期間限定で企業勤めをしているとのことだった。

「医者ずっとやってたけどさ、正直この先の将来に満足できるかわからなくなってきた。1回しかない人生だから、思い切って若いうちに起業してみたいんだよね。」

そしてつい先日、A先生のビジネスはスタートしたらしい。

一昔前の感覚でいけば、

「医者から転職なんて変わり者だろう。」「ついていけなかったのでは?」「騙されているのでは?」

と邪推されてしまうことが多かったように思う。

しかし現在ではそう言った雰囲気とは無縁の強者たちがポツリポツリと他業界に進出し始めている。

”組織の中で普通に優秀で体力も気概もある人が、副業や起業を始める”

この流れは他業種でも確実にきているはずだ。

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確かに今の経営者の世界には”お勉強が出来ただけの人たち”は少ないのかもしれない。

でもそれはそういう人たちにとって「経営者という選択肢を取らなくても、それなりに満足して過ごせていた。」という前提があったからだ。

医者で言えば、僕らを取り巻く環境はここ数年でずいぶん変わった。

働き方改革を中心に改悪されたと言っていいだろう。僕の周りには給料が下がって、休みが減った者までいる。

世のトレンドとしても決して医者に対する風向きは良いとはいえない。コロナ禍での対応や増大する社会保険料のやり玉としてあげられることも多い。高齢化社会に伴って訴訟リスクだって目に見えて上がっている。


「ここに留まっていてはいけない。新しい世界で生き残らなければ。」


僕らの一部はすでに外の世界に向かって動き始めている。

医者は確かにビジネスの素地がない。常識もない。業界全体としても新陳代謝が悪い。プライドもきっと高いのだろう。

一方で、たかだかお勉強だが、それを愚直に続けてきた胆力がある。また長時間労働に耐える体力がある。


僕は「これらがあれば、ひとまず戦ってみるのには十分ではないか?」と考えている。

おそらく何度も失敗する。でも食らいついて、修正する。

時間も取られる。寝ずにやる。

収入が減るリスクもある。その分資格を活かして、やりがいも誇りも捨て金だけ稼ぐ仕事をすればいい。

時間をかけて着実に積み上げていけば突破する道はあるはずだ。

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”お勉強が出来ただけの人たち”は堅実で安定を望む思考の人が多い。

当面の間は、大多数が現在の位置にとどまり続けるだろう。

なぜなら、現在の位置まで到達することに費やした時間やエネルギーによる慣性が大き過ぎるからである。

そしてその慣性に逆らえない者たちは、時間と共に緩やかに絶望に向かって進んでいく。

全体が沈む今の日本における安定は、立派な組織に属することではなく、個人として生きていけるかに懸かっている。

慣性を跳ねのけて、外に飛び出す者はこれからも必ず出てくる。

そして、真の安定を求めて、外の世界を彷徨い歩く。



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