猫と歯磨き
昨日で30連勤が終わった。
いや、31連勤だったかもしれない。久し振りの休日の朝、消し忘れた目覚ましでいつも通りの時間に目が覚めてしまった。
連休では無い。束の間の休みである。もちろん予定などない。社会人になりたての頃は、大学時代の友達と約束をして遊んだりもした。あれから20年。いわゆるブラック企業に勤めて、忙しさから親友たちもだんだん疎遠になっていき、気が付けば気軽に連絡を取れる相手が居なくなってしまった。
休みの度に同じことを考える。何のために生きているのか。ほぼ毎日働いて、金はあるが使う暇も相手もいない。いっそペットに猫でも飼うか。いや、会社に泊まることの方が多いからそんな無責任なことできないか。
ひとまず、布団から出ることにした。時刻はまだ朝5時をまわったばかり。特にルーティンがある訳では無いが、暗い気持ちを紛らわすために洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。
外は閑散としている。休日の朝の使い方に戸惑いながら、寝るだけの安アパートから外に出てみた。何かは分からないが、鳥が鳴いている。昔はこの鳴き声が怖かったなぁなんて思いながら5分ほどふらふらと宛もなく歩いた。
不自然に開いた傘が道脇に置いてある。何気なく近付くと、傘の下にダンボールがあり、その中に小さい猫が捨てられていた。汚れていて、エサもろくに食べれていないのか、痩せていた。
猫は私に気付くと、怯えているようだった。
でも、逃げる気力もないのかただ、弱々しくこちらを見つめていた。
飼ってやれないことは1番よく分かっているが、なんだか自分を見ているみたいで悲しくなってきた。家になにかなかったかな。鰹節くらいならあるかもしれないな。家に帰って家の中を探す。普段家にほとんど帰らないせいで、冷蔵庫はほとんど空である。
ツナの缶詰をみつけてそれを手に取り、慌ただしく靴に足を突っ込みパタパタと玄関を後にした。
これで懐かれたらどうしようかなぁ。情が湧いたら連れて帰ろうかなぁ。いままで理由もなかったら続けていた仕事をやめるきっかけになればいいなと、柄にも無いことを考えながら落ちた傘を探す。
あった。先程と同じように不自然に開いた傘を見つけた。
最初見付けた時からまだ30分と経ってない。ご飯だよー。と言いながらダンボールを覗くと、そこに猫の姿はなかった。
周りをみてもどこにも見つけられない。
誰かに拾われてしまったか。
はたまた私を怖がって別の場所へ行ってしまったか。どちらにせよ残されたのは汚れたダンボールだけだった。
家に帰ってきた。玄関について、重たい靴を脱いだ。
さっきより部屋の空気が暗いな。
どうやら照明のせいではなさそうだ。
さっき磨いたことを忘れた訳では無いが、おもむろに洗面台にむかい、顔を洗って歯を磨いた。
何かが変わる訳では無いが、落ち込みそうになったらいつもそうするようにしている。
気付けば午前7時前。そとは朝日が出始めて少しずつ明るくなってきた。
私はカーテンを閉めると、布団の中に入り久し振りの休日を寝て過ごすことに決めた。
〜Fin〜
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