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変な「お知らせ」を辿ってみたら

 新聞の折込に、また変な広告が入っていた。白地の紙に黒文字だけの地味な文書で、「住宅外壁塗装に関するお知らせ」と銘打っていて、一見広告らしくない。

 対象地域となる市区町村名を限定し、受付電話番号が記され、相談会のような催しに申し込む仕立てだ。商品やサービスの注文を直接促すものではない。「法外な料金を取られるケース」や「(工事に関する)クレームやトラブルが急増し、社会問題になっている」と補足説明されている。発行しているのは「一般社団法人〇〇」だが、この団体は「官公署や公共団体ではありません」との注記もある。役所の文書のような「殺風景」な体裁が、返って、何か注意喚起の公的なお知らせに見える。

 「地域下水道配管集中清掃のお知らせ」なる広告もよく郵便ポストに投函される。「(今回)対象地域」として「丁目・番地・枝番」を大きなゴム印で押し、清掃の時間帯と一緒に指定してある。一見、水道局からの公的な工事の案内に見え、一斉配管清掃ともなれば隣近所にも関係するので、「お宅、申し込んだ?」と、落ち葉掃除の時などに話題にもなった。

 「中古パソコン頒布会」なる「社団法人〇〇」の「お知らせ」も入る。「官公署や一流企業で使われていたパソコンなので安心です」と強調している。この裏メッセージは、官公署・一流企業・(こういう所と取引している)「社団法人」=安全・安心、ということだろう。「社団法人」の主催する「頒布会」だったら、理事長挨拶なんてのもあるのかな?

 ちなみに、「頒布はんぷ」と言うのは、「広く分けて配り、行きわたらせること」(岩波国語辞典第7版)の意味で使われることが多い。「官需品の払い下げ」と言う明治時代の行事を連想する。

どうも変だな?

 パソコンは、結局新品に買い替える方が良いという結論に達し、「頒布会」には行かなかった。

 水道配管一斉清掃は、例の「広告」は「公的なお知らせ」ではないらしいと、近所の人も含めて、申し込まなかった。

 住宅外壁塗装は、塗装職人のおじいさんに発注した。遠くから通ってくるおじいさんは、朝早くから陽が沈むまで、天候次第で作業をしなかったり、納得するまで作業を止めず、予定工期の2倍以上かかったものの、10年以上前の工事ながら、この先10年以上使えそうな仕上げになっている。

 その後も、幾つもの塗装工事会社が戸別訪問で勧誘に来た。インターホンで「不要」と答えても、営業不首尾の報告用だろうか、家の周りをうろうろ「調査」してから帰った。

 リサイクル業者も多い。「まだ使えるもの」や「高く買い取れるもの」があるとすぐには引き下がらない業者も多い。「お宅に伺って査定します」と言うと怪しくなる。

 固定電話には、相変わらず、さまざまな「勧誘」が来る。掛かって来る電話の1位は、「医療還付金」の詐欺電話。2位はリサイクル業者、3位が外壁塗装を含む家のリフォーム。一帯の住宅街が築後25〜30年を迎え、住民御高齢化が進んでいるのも一因だろう。

 戸別訪問や電話勧誘が全て怪しいという訳ではないが、疑わしいものは着実に増えている。結構執拗しつようで、あの手この手の会話で、なかなか立ち去らなかったり、電話を切らない。

 最近摘発された犯罪では、犯人グループが、特に高齢者宅の「資産調査」をしている事実が報道されている。つまり、「お金、あるいは金めの物」がどれくらいあるか、詐欺や強盗の「下調べ」だ。犯罪に直接関与していなくても、こうした情報は「安全に」売れるのだろう。名簿やリストの「市場」があり、社会的分業体制があるからだ。

 固定電話に掛かってくる詐欺まがいの電話の多くが、電話番号と名前や住所は分かっているものの未完成のジグゾーパズルの、足りないピースを増やすような質問をして来ることからも容易に推測できる。

 「社団法人」の謎

 最近よく目にする「一般社団法人」というのは、不思議な存在だ。「公的機関」のイメージがあるが、それには原因があるようだ。

  2008年に改正施行された「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般社団・財団法人法」)と「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人法)」の2つの法律もそれだ。何と明治29年(1896年)に制定された民法の110年後の法改正だ。

  古い明治民法は、色々なところで、今の時代の変化や社会の実情に合わないことが多々指摘されている。一般の企業=営利企業とは異なる存在として長く存在してきた社団法人(現在の規定では一般社団法人)なので、公的イメージが付き纏うのはある意味当然とも言える。「おかみ」が作った組織というイメージは根深い。

改正された2つの法律の施行前後の関係は、

出典:NPOセンター

 法律前文の「注」を読むと、「社員に共通する利益を図るための活動その他の幅広い活動をすることが可能」とある。社団法人は一般企業=営利企業とは違う規制と優遇制度がある。何だ、単なる業界団体なのか? 基本的には、昔からそうです?

 この法改正は、公益法人制度の改革として、最終的に、「新しい資本主義」政策の一翼を狙うところに狙いがあるようで、内閣府の長い有識者会議報告が出ている。

出典:内閣府

  その目的の一つとして、「営利を目的としない民間非営利部門が『公 』として多様な社会的価値の創造に向けて果たす役割が、ますます重要となる。」を掲げている。要は一般社団法人ときっぱり切り分けるということに主眼があるようだ。まあ、公益法人なら、住宅外壁塗装のお知らせなんてしないだろう。

(了)





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