いつものエッセイとはちょっと趣向が違うけれど衝撃を受けたので一筆。 ――店内は割と小ぢんまりとしていた。 テーブルは入口近くに1セットと、奥に二人用のテーブルが4セット。僕が入ったときは、客は奥のテーブルに二人組の女性がいるだけだった。 内装は高級感のあるロココ調で統一されており、細かな置物にも配慮がみられる。 天井から流れてくるジャズピアノのBGMが店内をより一層優雅に魅せ、午後のひと時を落ち着きあるものにしていた。 ――ただ、信じがたいことに、ここはれっき
「さあ皆さん、ちんどん屋ですよ!」 三人組のリーダーと思われる、ちんどん太鼓を持った女性が威勢のいい声を張り上げた。 それを合図に、トランペットを持った男性が透き通った金管の音色を奏でだし、太鼓がコンチキコンと鳴りだす。 ちんどん屋を見るのは久しぶりだ。 この日、昼食の食いどころを探してぶらぶら散歩していた僕の耳に、どこからともなくトランペットの音が聞こえた。 もともと吹奏楽をかじっていたこともあって、その音色が素人のものでないことはすぐに分かった。 どこから聞
五大明王がこちらを見下ろす。 京都、醍醐寺。 僕は御朱印集めが趣味である。 春季限定の御朱印があると聞いて、僕はこの日この寺を訪れた。 思ったより大きなお寺だった。 貞観の時代よりこの地に存在し、「醍醐天皇」の名の由来となった。さらには豊臣秀吉のゆかりもあり、平成の世には世界文化遺産に登録されたという、気の遠くなるほど歴史と縁起にあふれたお寺だ。 醍醐寺は大きく三つのエリアに分かれる。 日本最古の観音巡礼、西国三十三所の第十一番札所である准胝堂を擁する伽
さながら異界のようだ、と僕は思った。 高瀬川のせせらぎの音に交じって、ヤアヤアと喧騒が響き渡る。 魍魎たちが餌を求めて駆け引きをしているのだ。 せいぜい猛るがいい! 僕は喧騒をしり目に、手すりから身を乗り出した。 京都には「桜の名所」と呼ばれるスポットが数多く存在する。 しかしそのどれも「昼」の姿を前提としていて「夜」の姿は普段見ない。 ここは僕のお気に入りのスポットだ。 川にせり出した満開近い桜は、街路灯や店の明かりで自然にライトアップされる。夜の帳
先日、大阪にて友人と会った。 「飲めるとこ、探しに行こうか」 時刻は22時半。 18時過ぎからしこたま飲み食いし、胃袋はすでに満足していた。 しかし久々に会えたのが嬉しくて、そのまま解散、というのもさみしく思われたので、僕と友人はもう一軒、ゆっくりしゃべれる場所を探して大阪キタを彷徨うことになったのだ。 その日は朝から雨が降っていた。 春の到来を告げる、優しくも激しい雨。 雨は夜分まで降り続いていたが、僕らが一軒目の飲食店の最後の客となる頃にはすでに止んで