深夜のタクシー
最近、ほぼ毎日タクシーに乗っている。
勤務時間が深夜まで及び地下鉄が動いていないため、代金は会社持ちでタクシーを使って帰宅するのだ。
貧乏性な自分はこれまでタクシーをほとんど使ったことがなかったため、こんな世界があるんだという新鮮さを味わっている。
タクシーという乗り物の特徴は、乗客と運転手との距離の近さだ。電車やバスは基本的に大勢の乗客に対して運転手が1人。それに対しタクシーは、運転手1人に対して乗客も1人(1組)。
もう1つの特徴は、運転手の多くは高齢男性であるという点だ。普段高齢男性と1対1で話す機会は多いわけではない。
運転手(高齢男性)と近くで話す機会が増えたこの1ヵ月、いままで見えていなかったことが見えてきたように感じる。
印象的だったのは、無口で口調が上からで交通ルールもあまり関係なしに町を走り抜けるおじちゃんだ。
「どこまで?」
「○○町なので、○○駅の踏切を渡ってしばらく行って下さい」
「.........。」
「次はどーすんの?」
「このまままっすぐお願いします」
「........。」
「1800円。」
「これでお願いします」(ここで下車)
「バタンッ」
客なはずなのに、バイトで接客しているように感じられた。唯一のメリットは赤信号に成り立てでも突っ走ってくれるので、乗車時間はいつもより少しだけ短いこと。
一方では、今まで知らなかったコミュニケーション能力の高さを学んだ運転手もいた。
基本的に深夜のタクシー運転手は、客側の詮索はしない。客側の情報を聞きに来る運転手とは今のところ出会っていない。ゆえに車内では無口な運転手が多数だ。
詮索をしないという暗黙のルールの中、車内を和ませてくれるおじいさんがいた。そのおじいさんが使った手段は、独り言だ。例えば、
「もう1時かー、早いなー」。
という言葉。客としてはスルーもできるし、自分みたいに沈黙が気まずく感じる人は、
「今日は何時までなんですか?」
と質問もしやすい。
今まで祖母の独り言を無意識に聞き流していた自分だったが、ひょっとすると独り言は、相手に会話の糸口を与える(けれど無理強いはせず、疲れていたら会話しないという選択もできる)高度な戦略的コミュニケーション術だったのではないか、と思えてきた。
ともあれ深夜に働いている人たちがいることを知れて、深夜のタクシーの車内という世界があることを知った1ヵ月。昼間とは違った世界は、これはこれで面白い。
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