ダイアローグは車の中で
第3章 ダイアローグ
これまで本書のタイトルを構成する「ラジオ」と「くるま」についてそれぞれ書いてきました。「ラジオ」と「くるま」が揃えば、今回の取り組みは始められるかと言えば、もう一つ大事な要素があることに気づきました。それは「ダイアローグ」。
ここ数年、医療・保健・福祉の分野以外でも「ダイアローグ」という言葉が聞かれるようになりました。一種のブームになっているような気もしますが、私が精神看護の雑誌の特集で初めて知った時、驚きや目新しさではなく、自分自身の支援に言葉を与えられたとの思いを勝手に持ちました。
私は、社会病理学を専門にしているソーシャルワーカーが恩師だったこともあり、学生時代から不登校、虐待、依存症などに関心を持ってきました。常勤職員として、初めて就職した精神科病院も、通常の精神科治療以外に依存症の専門治療を行っているところを選び、入職1年目から私は心理士とともに薬物依存症のグループミーティングを担当していました。そのため、早い段階から相手をコントロールしようという感覚を捨て、振り回されながら関わる日々を過ごし、アディクションアプローチやナラティブアプローチの書籍もその頃に読んでいました。
そして、私は精神科病院を退職後に精神保健福祉センターで勤務するようになり、ひきこもりと出会いました。精神科病院での経験をもとに関わるものの、本人とは出会えず。相談に来る家族との関係も上手く取れない日々の中で、依存症者との対応を応用するようになりました。本人をコントロールしようとすることを止め、今日1日の関わりを大切にするようにしたところ、本人と会えるようになり、動かなかった本人が動くようになりました。結果が出てくるようになったことから、家族支援から本人支援、集団支援、就労支援に繋がるひきこもり支援の一連の流れを文章にまとめることにしました。
その際に、改めてさまざまな書籍を読む中で、オープンダイアローグで言われていることが私のしていることに重なることに気づきました。オープンダイアローグネットワークが出している対話実践のガイドラインには、オープンダイアローグの7つの原則が書かれています。具体的には、①即時対応、②社会的ネットワークの視点を持つ、③柔軟性と機動性、④責任を持つこと、⑤心理的連続性、⑥不確実性に耐える、⑦対話主義が挙げられています。中でも、⑥不確実性に耐えるは、私の支援にとって大事なところであり、ひきこもりは初めから会えるとは限らず、いつ会えるようになるのかも分からない。また、会えても動いてくれるのか、いつ動いてくれるのかも分からない。結果を予測できない中で、関わりを続けていく必要があります。私はオープンダイアローグを参考にしながら、「ひきこもりでいいみたい~私と彼らのものがたり」というタイトルの本としてまとめました。
今回の取り組みを行うに辺り、車の中でダイアローグ、なかでもリフレクティングを行おうと考えました。相談と言った場合、1対1のものをイメージしてしまいますが、この形を採用すると話をする人とそれを聞く人、悩みを話す人とその解決策を提示する人といった関係性が固定化され、この関係性で解決できない問題は取り上げられず、そのままになってしまいます。ひきこもりは、本人もどうしたら良いか分からない。相談をして何かアドバイスが提示されても、行動することが難しかったりします。そうなると、会話は止まり、関係性が中断することも起こります。会話に厚みを持たせ、さまざまな可能性も含めたものにするため、関係性を柔軟なものにしていく必要があると思いました。リフレクティングは1対1ではなく、2人以上の複数人数で行われます。例えば、今回の取り組みについて言えば、本人と私との会話が行われた後で、この会話について私と他の参加者で会話をし、それを本人が聞くというものであり、本人だけでなく、本人が参加することに同意をした人、家族や友人などにも入ってもらい、私を含めたダイアローグな空間を車内で作りたいと思いました。
「ラジオ」、「くるま」、「ダイアローグ」、私の取り組みを構成する要素が揃いました。あとは行動。どのように行動したのかは次回に。
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