【エッセイ】あの頃の僕
高校の最寄り駅を降りて、自転車を漕いで最初の信号で止まると、いつも十字路の斜め向かいに止まる少女がいた
オシャレな自転車に乗って、いつも茶色いショートカットの前髪を直しながら信号を待つ少し不良っぽい女のコ
制服のネクタイの色から、ひとつ学年が上の他校の進学校のコだということは解ってたから、僕にとっては遠い存在だったけれど、いつも彼女と向かい合う交差点をどこか待ち望みながら、僕は毎朝の登校を過ごしてた
ある日、歳がひとつ上の同級生に合コンに誘われた
僕は乗り気ではなかったけれど、断る理由もなく、ひとつ上の歳の女のコと2対2のカラオケに付いていった
駅前のカラオケ屋のドアを開けて、待ち合いベンチに座る見たことのある女のコ
毎朝、交差点で見かけてたあのコだ
僕は同い歳だと言う友達に頼んだ嘘の中に隠れ、その時間はそのまま過ぎ去って行った
それから数日が経って、連れて行ってくれた同級生が彼女が僕の直接の連絡先を知りたがってるから教えてもいいかと尋ねられた
僕は軽い気持ちでOKした
そうしたら、彼女から夜更けに電話がかかってきた
兄の影響で聴く尾崎豊の『群衆の中の猫』が好きなこと
北野武監督の『HANA-BI』を観て毎回、泣くこと
“僕”という一人称を使った詩を書いているということ
彼女は大事そうにひとつひとつ僕に語りかけてくれた
その詩を見せてほしいと次の日、学校が終わってから駅前の喫茶店で待ち合わせる事を約束して、その夜は眠りについた
次の日は合唱コンクールの当日の日だった
僕らのクラスは何を血迷ったか、まぐれで優勝してしまい、クラス全員で打ち上げのために急遽、山王のエルバート(焼き肉食べ放題)でお祝いをしようということになり、僕は迷ったが彼女に電話した
「合唱コンクール、優勝しちゃってさ…
打ち上げやるっていうから、悪いんだけど、今日、会うのはナシで…」
彼女はすごく驚いていたが了承してくれた
それから、しばらく連絡は途絶えたけど
ある日、家に居ると携帯電話が鳴った
ワンコール(ワン切り)だった
彼女からだった
僕は折り返そうと思ったけれど
その時、好きなコがいた
それは芽生えるかどうかなんて解らない片想いの相手だったけれど、その時の自分を誤魔化し切れず、彼女に折り返しの電話をすることはしなかった
No.1じゃなければダメだった
あの頃の僕は…
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