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【エッセイ】10人のアンサンブル

学生たちが夏休みに入った平日の昼、秋田市のショッピングセンターを歩いていた

蒸し暑い日が続き、気軽いTシャツでもひとつ欲しくて、目当ての何店舗かを回ってみようと悠々とウィンドーショッピングを楽しんでいた

そうしていると遠くからリズムを叩くドラムの音が優しく響いてきた

歩く先からどんどんと音が近づいてくる

イベントスペースで吹奏楽の演奏が行われていたのだ

巨大スクリーンには見慣れた校舎の拡大写真と母校の中学校の名前

僕が当時、通っていた音楽の先生が指揮をしている母校の演奏だった

風の噂で今年度から、再び何十年かぶりに母校に帰ってきて音楽を教えているという事は、地元の仲間達の間では大きな噂になっていたが、まさか、こんな所で再会できると思っていなかった

たった10人での吹奏楽のアンサンブル

それでも、ひたむきさが刻む優しいリズムと心まで届く透き通った音色に最後まで耳を傾け、大きな拍手を送った

すべての演奏が終わって近くに駆け寄り、先生に声をかけて挨拶したかったが、ドラム機材の撤去などで慌ただしく動いていて、呼び止める事が出来ずに僕の前を台車を押しながら、通り過ぎてエレベーターで行ってしまった

「自分の事を覚えてなかったらどうしよう」「軽くあしらわれたらどうしよう」

そんな不安に負けてしまった

今度、またどこかで会えたら名刺を右手に堂々と声をかけてみたい

今でも忘れられない、先生から教えてもらったあの音楽を胸に♪

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