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社会保障審議会での障害年金の議論

社会保障審議会年金部会で障害年金が議論されている


令和6年7月30日に社会保障審議会年金部会で障害年金が議論されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240730.html

年金制度は法改正が予定されていて、それに伴う議論になります。

主な論点は

  • 初診日要件

  • 任意の時点までの遡及請求

  • 直近1年要件の延長

  • 障害年金と就労収入との調整

  • (保険料免除の取り扱い)

となっています。

初診日要件

初診日要件とは、障害厚生年金を請求する場合、初診日が厚生年金保険の被保険者期間中にある(わかりやすく言うと、会社で社会保険に入っている間に病院に行き始めた)必要があります。
障害厚生年金は障害基礎年金と比べて、支給される障害の範囲、支給される額とも有利で、それ以外の方は障害基礎年金の請求になります。

ただ問題があって、たとえば20歳から50歳まで30年厚生年金保険料を払っていても、退職した翌日に事故に遭えば、請求できるのは不利な障害基礎年金になってしまうことになります。
障害基礎年金は定額であり、20歳前に傷病がある保険料を納めていない受給者と同じ額なので、30年かけてきた厚生年金保険料の反映される余地が全くありません。これはおかしくない?という観点です。
なので、転職のために厚生年金保険から抜けている間の任意加入や長期要件(一定以上、厚生年金保険に加入していた場合には障害厚生年金の請求を可能とする)制度を新設することが議論されました。

任意の時点までの遡及請求

障害年金は、障害状態かどうかを確認する時点が決まっています。
これは2つしかなく、障害認定日時点か請求日時点の2か所です。障害認定日とは「初診日から1年6か月経過した日」となるのが原則(例外あり)です。請求日時点とは文字通り、障害年金の手続き(裁定請求)をする日です。
ただ、人によっては障害認定日から請求日までに障害状態になり、その時点では障害年金制度を知らなかったため、受給して来なかった場合があります。中にはこの間が10年以上に及ぶ人もいます。

わかりやすい例で言うと、糖尿病性腎症という病気があります。慢性腎不全が進行して人工透析に移行すると障害年金では2級に該当します。そこで手続きできれば良いのですが、できていないケースもしばしば見受けられます。
特に慢性の糖尿病は病歴が長くなりやすく、初診日から1年6か月経過時点では障害状態に該当しないことが多い(というかほとんど)であるため、さかのぼって受給することができず、事後重症請求という請求の翌月からしか受け取れない請求方法を選択することになります。その時に請求を忘れてしまって10年・・・ということがあり得るのです。これを「人工透析を導入した時点にさかのぼれればいいのに」と変更したらどうかというのが今回の論点です。

直近1年要件

基本的に年金とは「保険」なので保険料を支払わなくてはなりません。
障害年金も年金給付を受け取るには、一定以上、未納がない事が求められています。これを保険料納付要件と言います。どのくらい未納があってはいけないかと言うと「全体の3分の1」とされていて、それよりも多く未納があると受け取ることができないことになっています。
これは「厳しい」という意見もあり、現在は初診日の属する月の前々月から1年さかのぼって、その間に未納がなければ請求できる特例を設けています。
本当にこの要件が厳しいのかどうかはさておき、この特例を延長するかどうか(ずーっとこれまで延長を繰り返してきています)を議論しています。

障害年金と就労収入との調整

障害年金は非課税であり、かつ収入との調整がない給付です。
高額所得者であったとしても、収入が全くなかったとしても、請求制度、障害状態、保険料の納付額と納付期間、家族構成などに応じた額が支給されます。これは年金が拠出制(つまり保険)であるからです。(一方で、在職老齢年金という調整の仕組みも既にあるわけですが。。。)

これを考え出すと、最後には障害とは何か、という難題にぶち当たるわけですが、身体、精神、内部いずれの障害であっても、個々の自己努力の下に就労しているというのは想像に難くありません。そこで障害年金と収入の調整を実施してしまうと、障害年金受給者の勤労意欲を奪いかねません。そもそも保険なのになぜ自己努力による収入と調整されるんだ、という疑問が生じます。一方で、たくさん収入がある人には不要だろうとか、国のお財布事情にも限界がある、という観点もあります。

じゃあどんな人に障害年金を支給すべきか、となると、今度は医学モデルから社会モデルへの転換が必要じゃないか、とか話が壮大になってきて、年金制度だけの改正では足りなくなってきます。たとえば身体障害者手帳や他の手帳制度も医学モデルで動いているわけです。議論が必要なことは確かですが、今回の年金の制度改正には間に合わないことは確実でしょう。

簡単に「所得制限すればいいじゃない」という話ではないように個人的には思います。

まとめ

というようなことを議論しているわけですが、障害基礎年金に3級を創設する、という点が「現時点で議論が求められる課題」に入っていませんでした。これは既定路線なのか、実現させない方針なのかが気になっています。

障害基礎年金に3級を創設すると、今の基準で言うと人工関節への置換、ペースメーカーやICD装着、人工肛門造設、1型糖尿病(一部)、常時の在宅酸素療法などが対象になってくると考えられ、国民年金加入者の請求の余地が広がります。なにせ障害基礎年金において呼吸器疾患、心疾患の不支給率は6割を超えています。

一方で、現在2級で受給している精神障害(知的・発達を含む)の方のうち、障害者雇用で就労している方が3級に落ちないか(つまり減額になることを意味する)という点が心配な点になってきます。

今後も議論を注視していく必要があります。

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