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障害年金の現在地①

こんにちは。さいたま市で社会保険労務士と就労継続支援事業所を運営しているさかたです。
私は障害年金の請求代理を丸14年やってきました。どんな制度であっても完璧な制度というのはないわけですが、現行制度の行き詰まりを感じることもあります。その点についていくつか書いてみます。

年金とは

国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

国民年金法第一条

とされています。

つまり、障害年金は障害によって(国民)生活の安定が損なわれることを防止する目的の経済的給付であり、もっと言うと、老齢や障害や死亡があると、所得が下がって生活が脅かされると思われるので、それを防ぐための補償と考えられます。

確かに、一家の大黒柱に老齢や障害や死亡といったことがあると、生活は大打撃を受けそうです。そのリスクを全体でシェアしています。

障害年金は医学モデルであること

障害年金には必ず「障害の程度が障害認定基準に該当するか」の審査があります。
このため、障害年金の請求には「医師の診断書」が必要です。障害年金の障害認定基準は、厚生労働省で行われる専門家会合で決められ、この会合の参加者は医師です。
医師が書いた障害年金診断書は、保険者において認定医と呼ばれる医師が見て、基準に該当するかを確認して等級を決めることになっています。
つまり、障害年金制度において障害状態かどうかは医学的に決められています。

障害認定基準を見ると、肢体の障害においては関節可動域、筋力、それに付随する日常生活能力の減衰を評価して等級を認定することになっています。
つまり、実際に日常生活能力が下がり、それに伴って実際に所得を得る能力が下がっている必要はありません。医学的に(稼得能力が下がるだろうという)基準を満たせば支給される仕組みであり、実態を見ていません。

一方で、精神の障害においてはその症状について数値化することが難しいことがほとんどです。そのため、具体的に「適切な食事」だったり「金銭管理」であったり「清潔保持」「社会性」といった7項目を4段階で評価し、最終的に5段階の総合評価を記載して、それを基に等級を認定する仕組みです。さらに診断書には「現症時の就労状況」欄があります。

これを見ると、精神障害においては「実態」で評価をしているということができます。障害部位によって「障害」の見方が違うのです。

「障害年金は働いていても貰えると聞いた」と言って、精神障害の方が不支給になるのはよくある話で、それはこれが原因です。肢体では必ずしも生活実態を見ていないが、精神では生活実態を見ているからです。

精神の障害の診断書には「同居者の有無」という欄があります。診断書上、著しく評価は低いのに「同居者:無」の場合には、「ではこの人はどのようにして生活しているのか」ということになります。
しかし、そもそも肢体の障害に「同居者の有無」の欄はなく、確認すらしていませんからこうした疑問は生じません。なぜ精神の障害だけ「同居者の有無」を確認するのでしょうか。そもそも「同居者の有無」とは請求者の障害状態の一部と言えるのでしょうか。

「現症時の就労状況」も同じです。この欄には月の収入を記載することがありますが、障がい者雇用においてその労働環境や収入は雇用する会社の規模、都合によって左右されることが多く、健常者の就労とは全く事情が異なります。
そもそも健常者だって能力と給与が常に見合っているとは言いきれないのに「現症時の就労状況」は「障害状態」の一部と言えるでしょうか。

もちろん社会保障のお財布にも限りがあるので、無限に出すことはできず、どこかで線を引く必要があります。
働いて収入を得られる人にまでは支給できない、というのは、制度目的を加味すれば考え方として合理的です。しかし肢体では支給されるのに精神では支給されないという状況は不合理です。

現行の医学モデルによる認定は、本当に妥当なのでしょうか。

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