見出し画像

障害年金の現在地③

一般的に、障害年金で精神の障害は受給が難しいと言われている。

うつ病などの精神疾患は、障害年金の認定が難しいのが現実です。
さらに近年、請求件数の増加などの影響もあり、審査も厳しくなってきていますので、なんの知識もないまま、ご自分で申請をして、不支給裁定を受ける方が多くなっています。

とある社労士の「障害年金相談センター」のサイト

ここ、noteでも障害年金請求は「難しい」という話と「自分でもできる」という話がいくつも書かれている。
どれも事実だと思うけれども、個人の経験というのはサンプル数が1なので、それだけで語るのは危険、というか全体像を語ることはできない。

ということでまずは統計を見てみたい。


障害年金全体の請求件数と不支給率

令和4年度障害年金業務統計(日本年金機構)

令和5年度は終わったばかりなので、現時点でこれが最新の統計である。
障害年金の新規の決定件数は、年間で基礎・厚生合わせておよそ13万件ある。ちなみに新規裁定とあるのは厚生労働大臣に対して「これから年金ちょーだい」と言ったと言い換えてよい。

そのうち1万件、7.7%が不支給となっていて、92.3%は障害手当金を含めて何らかの受給ができていることになる。

障害手当金は、3級よりも軽い障害に対して支給されるが、症状が固定している場合に限られ、症状が固定していない障害手当金相当の障害は3級14号として3級の障害厚生年金が支給されることになっている。そのため障害手当金として支給される件数は非常に少ない。これは良い制度なのだ。

ウチの経験だと、3級14号の認定は人工関節置換前の変形性股関節症(一肢一関節の筋力半減)が多く、障害手当金は怪我による輻輳(眼)があった。いずれも初診日において厚生年金保険の被保険者でなくてはならない。

精神の障害の不支給率

それでは障害の種別ごとの不支給率を見てみよう。

同じ統計を参照しないと意味がないからね、同じです

より請求件数が多い障害基礎年金の統計である。

知的障害は「精神の障害」の診断書を使うので「精神」に含まれてしまう。なお、てんかんや高次脳機能障害もここに含まれる。
行政は、行政手続法によって「請求」に対しては「処分」をしなければならない。障害基礎年金の決定は「処分」であり、1級、2級または不支給のいずれかの処分が下る。

これを見ると、精神・知的障害の不支給率6.4%である。全体の不支給率は先ほど見た通り7.7%、障害基礎に限ると9.2%なので、平均よりも「精神・知的障害」は通りやすい障害であると言える。

と言うよりも、精神の障害は、眼の障害と並んで最も通りやすい障害になっている。

うつ病などの精神疾患は、障害年金の認定が難しいのが現実です。

とある社労士の「障害年金相談センター」のサイト

「うつ病などの精神疾患は」と障害を限定して書いてあるので、比較対象が明記されていないが「他の障害と比較して難しい」という趣旨と捉えるのが自然だろう。しかしこれには裏付けがない。ミスリードまたはポジショントークと判断したい。

話は変わるが、もし利益重視で障害年金を業務とするならば、不支給率が低い障害を多く受任するのがセオリーだろう。報酬の大部分は受給決定で得られる報酬(成功報酬と言うと怒られることになっている)に依存しているからだ。

であれば請求件数が多く、不支給率の低い「精神の障害専門」と謳う社会保険労務士がいるのも納得である。それに内部障害まで含めてしまうと障害認定基準はもちろん、医学的知識など必要な勉強量が一気に増えてしまう。

内部障害の厳しさ

ということで、統計的に、精神の障害は他の障害よりも受給しやすい、ということがわかったわけだが、改めて見ていただきたいのは内部障害全般の厳しさである。

特に「循環器の障害」(心臓)の不支給率は6割を超えている。「呼吸器の障害」(肺)の不支給率も6割弱である。内部障害は2級になりづらいのである。これは障害認定基準のハードルが非常に高いからだ。

例外的なのは腎疾患で、腎疾患は人工透析が2級とされており、多くの方が透析導入後に障害年金請求を検討するから、不支給率が低くなっている。

Xで「がんでも障害年金は受給できます」という書き込みをする医師や社労士を見かけることがあるが、正直に言うと複雑な気持ちになる。書いたように内部障害には不支給が多いからだ。

もちろんその情報を得ることで受給していく方もいるだろう。わかる。情報発信の意義自体を否定するつもりは全くない。
でも不支給になる方、もっと言うと、相談段階では、請求まで至らないような、とても該当しないと思われる方の方が圧倒的に多い。がんという大きな病気の方に「現時点で該当しない」「増悪した場合には請求が考えられる」と伝えるのは非常に辛いことだ。
ちなみにウチの母もがんを患っていて、とりあえず治る見込みはない。請求するとしたら障害厚生年金であるが、該当しないと思われるので話もしていない。(そもそも年齢的にも請求する意味がないのだが)

がんでの請求の経験の話をすると、乳がんで余命3か月という方の請求をしたことがある。結果は3級であった。結果が出て1か月も経たずに亡くなられたが、障害年金の受給権が得られたことに大変安堵していただいた。
また肝臓がんの請求も数件行った。一人は肝性脳症がかなり進んでおられて年金証書到着前に亡くなられた。結果は2級だった。
がんではないが、拡張型心筋症の方も年金証書到着前に亡くなられた。2級であった。

卵巣がんで卵巣摘出後の後遺症(ホルモンバランスの乱れ)による請求も行った。この方の場合はまず該当しないことが見込まれたので、相談段階でかなり強く請求しないことを勧めたのだが、本人が「どうしても請求したい」「諦められない」ということでやむを得ず請求をした。
結果はやはり不支給であった。ボロクソに文句を言われた。

まとめ

内部疾患により、死に瀕している、または死期が近づいていると思われる人が2級や3級になっていくのを見ていると、いたたまれない。

障害年金とは生きていくためのもの、どうせお金はあっち側には持っていけない、そう言われてしまえばそうなのだが、障害とは何か、障害年金とは何かということを考えてしまう。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?