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塗料メーカーで働く 第三十二話 進捗報告会

 1991年1月7日(月)付けで 新規事業部の組織変更が行われ この日に 技術部へ 新任の米村部長がやってきた。 

 これまで技術部の部長職は 平田本部長が兼任していたが 技術部の事業が徐々に拡大してきたことにより 技術部の管理監督の強化のために専任部長が配置された。

 長身で細身 広い額にメガネを掛けた米村部長は 目の表情は見えないが 他の部長等と違い居室にいても あまり威圧感を感じさせないタイプだった。

 米村部長の赴任から1週間くらい過ぎた日に 彼は 川緑のところへ来ると 「あんなあ 今月の部課長会議で報告してもらえんやろか。」と言った。

  川緑は 「ということは 研究費を使ってもいいということでしょうか。」と聞くと 「いや そらまだ 決まっとらへんのやけどな おっさんらがあんたの仕事の進捗を聞きたいゆうとるんよ。」と言った。

 部長は 先日の川緑の部課長会議での報告の後に 部長等の間で賛否両論の議論があり 川緑の提案に対して直ぐにGOというわけにはいかず 様子を見ることになったと言った。

 1月18日(金)午前10時に 新規事業部定例の部課長会議が開かれ その後 引き続き 川緑の業務報告が行われた。

 川緑は この日の報告を 実務を担当している浜崎さんに依頼した。

 浜崎さんは 彼の研修テーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」の中で取組んでいる2つの課題への進捗について報告を行った。

 1つの課題は UVカラーインクをUV露光する時に 照射した光の内 インク中の光重合開始剤に吸収される光量を厳密に求めることだった。

 もう1つの課題は 光重合開始剤に吸収される光の量とインクの硬化性とを比較検討して それらの関係を考察することだった。

 浜崎さんの研究に期待される成果は UVカラーインク中の光重合開始剤の光の吸収量と硬化性との関係を定式化することだった。

 その関係を定式化できれば その式はUVカラーインクの開発を促進できるはずで その結果 自社の貧弱な開発体制であっても 競合他社との開発競争に勝つことができるかもしれないと考えていた。

 浜崎さんの報告は 研究の結論や考察までは至ってなく この日の報告は 途中経過の報告となった。 

 部課長等は 首をかしげたり 腕を組んだりしながら話を聞いていたが 彼等から 浜崎さんの報告に対して 特にコメントはなかった。

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