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塗料メーカーで働く 第二十三話 技術部の体制変更

 1990年10月1日(月)付けで 新規事業部の技術部内の体制の変更が行われた。

 光ファイバー用UV樹脂関連の開発チームの担当管理職は 森田課長から川上課長に代わった。

 川上課長は 40歳台後半 小柄で中肉 白髪で日焼けした顔 竹を割ったような気性で 傍から見ても 人の好き嫌いがはっきり分かるタイプだった。

 彼は それまで 技術部のプリント回路基板用UVレジスト開発チームを担当していた。

 彼は 気の合わない上司とは 距離を置き 部下の面倒はよく見ていた。

 午前11時頃 技術部の商談テーブルで 川上課長は 川緑と業務の進め方について打ち合わせを始めた。

 川緑は 事前に 担当業務内容をまとめた報告書を作成していて この資料に沿って報告を進めた。

 報告書は 「現状」と 「重点取り組み」の2項目から構成されていた。

 「現状」には 担当する電線メーカー7社との折衝状況がまとめられていて 各社の要求するUVカラーインクの性能と自社の対応状況が示されていた。

 川緑は 「現状」の説明の最後に 「現在 複数の競合他社と開発競争中ですが 今の開発体制だとサンプル対応で手一杯で 開発に注力できていません。」と補足した。

 「重点取り組み」には 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」の取り組みと その業務遂行に必要な実験装置について書かれていた。

  「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」は UVカラーインクの開発競争に勝ち残るために必要な開発技術力の向上を目指すものだった。

 それには 幾つかの最新の実験装置が必要で 報告書に それらの装置の特徴と価格が示されていた。     

 川緑は 「開発競争に勝つには この研究を進めるしか手がありません。」と言った。

 報告を聞いた川上課長は 「川緑君が考えているように仕事をしたらいいよ。」と言い 「まあ しかし 研究費が取れるかどうかは分からんなあ。」と言った。

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