【超短編】たいむすりっぷ

かちっ、かちっ

いつも鳴っている時計の音で目が覚めた。

まだ外は暗くて、体感深夜二時。

まだ眠たい、布団の外は肌寒いのに
なぜか私はパソコンに向かった。

2027/8/12

右下に出ている数字。
少なくとも今は、2023年の10月のはず。

なのに、その時の私は
それを当たり前のように受け入れて、動画配信サイトを開いた。

「ナイフの首は私で好きが」

という動画が画面の先頭にあり、それを再生する。

さー、という小雨のようなノイズと共に映されたのは、
青紫色の夕焼け空。
日曜夕方のアニメのような街並みである。
動画の撮影者(以下「彼」とする)は、家の二階からその光景を撮っている(と思う。高さ的に)。

彼は電気のついていない、薄暗い部屋を横断して、
ドアを開けて暗い廊下に出て、階段を下りた。
下りたら、正面に玄関、左手に和室、そして右手のキッチンへと歩を進める。

キッチンの外には、麦わら帽子を被って白いワンピースを着た人。
スイカくらいの大きさの何かを、両手で大切に抱えている。
顔は、目、目、口、のように真っ暗い穴が空いているだけである。

彼はその人の方へ歩を進め、落ちた。
五階くらいの高さから。
地面に激突したが、音声は依然としてノイズだけ。

バウンドしたカメラは、地面から二階建ての家を見上げている。
いつの間にか外は真っ暗だった。

私は何かに満足して、遠足を楽しみにしたあの頃のような気分でパソコンを閉じ、
再び布団に入り、眠りについた。


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