見出し画像

偶然見つけた手帳

この時期になると、あるご利用者のことを思い出す。

透析の送り出しで介入していた一人暮らしの男性。
いつも広島弁で話していたんだけれど、たまに怒っているように聞こえてしまい確認すると、「怒っとらんわ!!」と反論するのがお決まりだった。
私はそんな豪快なその方と話すのが楽しかった。

そんなある日。
いつも通りお部屋に行き、透析送り出しの準備をしていると、TVで旅番組を見ていたその方に声をかけられた。
「ワシもよく旅行したなぁ。机の引き出しにパスポート入ってるから見ていいよ」
「わかりました。あ、確かにパスポートありますね!」
その引き出しに見慣れない手帳があることに私は気づいた。
なんだろうか?と思い、その手帳に書いてある文字を読んで驚くことになる。そこにあった手帳は被爆者手帳だった。

「〇〇さん、その……単刀直入に伺いますが、被爆されていたんですか?」
「ああ、そうだよ。そこに手帳あるもんな。いくつになってもあの日の出来事は忘れられん。あの日外を歩いていたら突然ピカーッと閃光が走って、ワシは気づいたら吹き飛ばされて全身やけどしていた。周りは焼け野原で色んな声(うめき声・叫び声・泣き声)がして、たくさんの亡骸がそこら中にあって地獄絵図じゃった。」

私は手帳を歴史の教科書でしか見たことがなく、まさか本物を見るとは思いもしなかった。
そして、被爆体験をご利用者から聞くのも初めてで、とても貴重な体験をしたと思った。

あまり被爆したことを公にしたくない方がいるのも事実で、それは仕方ないとその方は話していた。
「生きていても後遺症で苦しみは続く。差別もあったし、隠したくなる気持ちはわかる」と。
手帳で介護保険が助成されることを知らなかったようで、ケアマネさんに伝えてよいか確認すると快諾してくれた。そして、
「ワシが被爆者だということを他の人に話してくれ。伝えてくれ。」と話してくださった。

介護の仕事をしていると貴重な話を聞く機会が多い。今回もその1つだと思う。
平和に過ごせる日々の大切さを仕事で思い知らされる。

今日も1日穏やかに過ごせますように。そう願わずにはいられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?