- 未来の京都へ継承されていく伝統。伝統産業に携わる方の思いとは?- 京都の伝統産業の未来を見据える
記事のコンセプト
西陣織、京扇子、京菓子
伝統産業は、京都の魅力のひとつである。しかし、その多くが失われ、衰退している現状がある。それを次世代に継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だろうか?
私は京都の伝統産業や文化遺産の保存に興味があり、数百年間に及び継承されてきた伝統産業や歴史的事件の起こった史跡が残る京都に何度か足を運び、魅力を感じた。そこで、未来に向けて伝統産業や文化遺産を継承し、より多くの人々に知ってもらうにはどうすればよいかと考えるようになった。そこで私は、京都の伝統産業•文化遺産の保存活動をされている特定非営利活動法人明日の京都文化遺産プラットフォームでインターンシップを行うことを決め、4つの実習先に行かせて頂いた。実習先では様々な業務を体験する中、京都の伝統産業の魅力やそれに携わる方の思い、次世代に伝統産業を継承するためにどのような取り組みや努力が必要かの3点を明らかにし、note上で記事をまとめることにした。そのため私は、職人さんや社長さんにインタビューをさせて頂いた。
本記事では、伝統産業の魅力やそれに携わる方の思い、次世代に継承するための取り組みの3点についてインタビューを通して考えたことや学んだことをまとめている。伝統産業に興味のある方や、それを次世代に継承したいと考えている方にとって、参考になる内容となっている。
実習先の紹介
インターンシップを受け入れて頂いた特定非営利活動法人明日の京都文化遺産プラットフォームと京都染元しょうび苑、大西常商店、株式会社老松、株式会社増田徳兵衛商店の4つの実習先を簡単に紹介する。
特定非営利活動法人明日の京都文化遺産プラットフォームは京都の伝統産業や文化遺産の保存と継承の活動を行っているNPO法人である。主な活動目的は無形・有形遺産を継承し、未来に向けてその存在価値を高めることである。私はインターンシップ生として実習に参加させて頂いた。
京都染元しょうび苑は、ろうけつ染めという伝統技術を使い、のれんづくりに取り組んでいる会社である。
ろうけつ染めとは、溶かした蝋で文字を筆書きし、蝋の部分が染まらずに白く残る伝統的な染めである。
私はそちらで染め職人としてお仕事をされている上林さんにインタビューさせて頂いた。
大西常商店は、大正2年創業の京扇子の製造やフレグランス販売を行っている会社である。
元は髪留めの道具である元結を作っており、原材料の和紙が共通していたことから京扇子を作るようになったという経緯がある。
私はそちらで女社長としてお仕事をされている大西社長にインタビューさせて頂いた。
株式会社老松は、明治41年に京都でも最も歴史の古い花街である上七軒で創業した京菓子の製造や販売を行っている会社である。
主要製品は、有職諸儀菓子、山人艸果、京の風土菓などである。
私はそちらで、京菓子職人としてお仕事をされている中丸さんと木下さんにインタビューさせて頂いた。
株式会社増田徳兵衛商店は、1645年創業のにごり酒の醸造や販売を行う会社である。
増田徳兵衛という名前は代々襲名制をとっており、家督を引き継ぐ際には、戸籍上の名前も変わるという性質がある。
私はそちらで、代表取締役社長としてお仕事をされている増田社長にインタビューさせて頂いた。
質問と回答
<ろうけつ染め職人上林さんインタビュー>
Q、ろうけつ染めを使ったのれん作りに取り組まれる中で、どのような思いを持っていらっしゃいますか?
A、手間を惜しまず、自分でも納得できる商品を作ることでお客様に喜んでもらいたい。より良いものを作り続ける意識を持っている。
Q、次世代に伝統産業を継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だとお考えですか?
A、オーダーのれんの生産を軸とし、体験を取り入れることを視野に入れている。また、いかに生産から販売を一直線にし、利益率を保つことが出来るかが今後の伝統産業業界で重要。
Q、お客様に伝えたいろうけつ染めの魅力とは何ですか?
A、蝋のひび割れや柔らかい蝋のタッチ。また、表現方法によって色の柄が異なるため、自分の感性によって感じ方が様々であること。
Q,、伝統産業は基本的に受注による生産体制を取ることが多いですが、国内販売のみでは経営が困難な場合もあります。こうした状況を踏まえて、海外販路の拡大についてはどのようにお考えですか?
A、海外の方にろうけつ染めを紹介し、興味を持ってもらえれば日本に逆輸入してもらえる。そのために、HPを外国語対応にしてアクセス数を増やす、海外版のマーケットを拡大するなどの取り組みを行っている。また、海外のアーティストやブランドなどともコラボし、認知度向上に努めている。
Q、仕事のやりがい、今後の目標はありますか?
A、自分の作った商品がお客様に喜んでもらえたとき。ろうけつ染めを世界に広げ、お客様に認めてもらえるようなかっこいい商品を作る。
<大西社長インタビュー>
Q、京扇子の製造やフレグランス販売に取り組まれる中で、どのような思いを持っていらっしゃいますか?
A、先祖の方から京扇子の50年をお預かりしているという意識がある。京扇子業界は狭い。だからこそ、自分がお客様からどのように見えているかという点に気を配っている。
Q、次世代に伝統産業を継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だとお考えですか?
A、ただ伝統工芸品を売るだけではなく、それを通して京都の文化や歴史を伝えることが必要。また、新商品の開発に力を入れていきたい。特に、モダンな構図を加えた現代柄の京扇子を作っていきたい。
Q、お客様に伝えたい京扇子の魅力とは何ですか?
A、京扇子は奈良、平安時代から存在し、約1200年前に遡る。時代を経てマイナーチェンジを繰り返し、その役割は様々であるという魅力がある。
Q、伝統産業は基本的に受注による生産体制を取ることが多いですが、国内販売のみでは経営が困難な場合もあります。こうした状況を踏まえて、海外販路の拡大についてはどのようにお考えですか?
A、海外販路の拡大については特に考えていない。海外のお客様から扇子やフレグランスの要望を頂くこともあるので、その仕事を継続してやっていきたい。
Q、仕事のやりがい、今後の目標はありますか?
A、お客様の喜んでいる姿やグッズを使っている報告を受けた時。今扇子を持って感じる美しさだけではなく100年先の美しさを求めていきたい。
<京菓子職人中丸さん、木下さんインタビュー>
Q、京菓子作りに取り組まれる中で、どのような思いを持っていらっしゃいますか?
A、お客様にまた食べたいと思ってもらえるようなお菓子を作りたい。京菓子作りに対しては、丁寧さや細かい配慮を忘れず、常に同じものを作るという意識を持っている。
Q、次世代に伝統産業を継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だとお考えですか?
A、様々な世代を巻き込んで、伝統産業に関連するイベントを開催することが必要。(例:お菓子作り体験、お茶会、京菓子展)これらのイベントを通して、特に若い世代の伝統産業に対する敷居の高さを無くしていく。
Q、お客様に伝えたい京菓子の魅力は何ですか?
A、京菓子は五感の芸術、その中でも特に聴覚が大切。菓名を聞いて季節を感じてもらうことが出来る。京菓子の味は同じだが、色や形は季節によって変化する。それを受け取った人が感じ取ってくれることが魅力。
Q、伝統産業は基本的に受注による生産体制を取ることが多いですが、国内販売のみでは経営が困難な場合もあります。こうした状況を踏まえて、海外販路の拡大についてはどのようにお考えですか?
A、海外の方は「オーダー」だけではなく「体験」を求めている。
それを把握したうえでオリジナルなものを作りたい。
Q、仕事のやりがい、今後の目標はありますか?
A、お客様から美味しい、また買いたいと言って頂けること。お菓子というのは人と人を繋ぐもの。人を笑顔にできる京菓子の魅力を特に若い世代に伝えていきたい。
<増田社長インタビュー>
Q、にごり酒の醸造や販売に取り組む中で、どのような思いを持っていらっしゃいますか?
A、「元祖」という肩書に縛られることなく古きを理解しつつ、それを壊すというスタンスでやっている。例えば、ラベルを時代に逆行する形で引き(マイナス)のデザインにすることで禅のイメージを実現している。
Q、次世代に伝統産業を継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だとお考えですか?
A、古きを理解しつつ、それを壊すという考えと時代に適合したトレンドを組み合わせることが必要。ファッション、音楽など様々な業界とコラボし、新たな顧客を獲得することが必要。
Q、人間の感性と融合させた酒造技術、にごり酒の魅力は何ですか?
A、お酒の味は甘いも辛いも人によって変わる。味と値段だけではなく「誰と」「どこで」飲むかといった酒の楽しみ方や「酔う」という感覚を伝えることが出来るのが魅力。
Q、伝統産業は基本的に受注による生産体制を取ることが多いですが、国内販売のみでは経営が困難な場合もあります。こうした状況を踏まえて、海外販路の拡大についてはどのようにお考えですか?
A、販売拠点を京都と海外に限定し、全国的な展開はやめている。その狙いはニッチでローカルなものという立ち位置を確立したいことにある。海外の方に向けたにごり酒のツアービジネスや高級酒の販売により、高単価で少量のビジネスを実現していく。
Q、仕事のやりがい、今後の目標はありますか?
A、変わるべきもの、変わらないべきものを見定めるところ。伝統と革新のバランス感を保ち、にごり酒の魅力を世界中に発信したい。
インタビューを通して考えたこと、学んだこと
伝統産業に取り組まれる中でどのような思いを持っていらっしゃいますか?という質問に対しては以下の回答を得ることが出来た。
この意識は、伝統産業が数百年間に及び継承され、これからも継承されることを前提にしている。そのため、伝統産業に携わる方が、同じ品質のものを変わらず作り続けるという思いがあるのではないかと考えた。
”先祖の方からお預かりしている意識”は聞きなじみのない言葉だと感じ、株式会社老松の太田取締役にお伺いした。
すると、「先祖が偉いのではなく、職人や従業員がいてこそ数百年間に及び継承できたため、それに対する感謝が隠されている」と教えて頂いた。伝統産業に携わる方が、過去の人との繋がりやそれに対する感謝を大切にされていることを学んだ。
お客様に伝えたい伝統産業の魅力とは何ですか?という質問に対しては以下の回答を得ることが出来た。
これらの回答に共通するのは、人間の感性であると気づいた。伝統工芸品を手に取った時、人間は五感を使い、様々な感性を感じる。
例えば、ろうけつ染めののれんや京扇子なら視覚や触覚を、にごり酒なら嗅覚や味覚を使う。
伝統産業の魅力とは、手に取った時に五感を通じて、様々な感性を呼び起こすことが出来る点にあるのではないかと考えた。
次世代に伝統産業を継承していくためには、どのような取り組みや努力が必要だとお考えですか?という質問に対しては以下の回答を得ることが出来た。
これまで伝統産業は受注による生産体制で成り立っていたが、今後は「体験」も重要な要素であることを学んだ。「体験」とは伝統産業のイベントを指す。では「体験」で何を重視するべきなのだろうか?
イベントでの「体験」において重視すべきは、様々な世代を巻き込み、時代に適合したトレンドを取り入れることだと学んだ。
例えば、にごり酒ブランドと流行りのファッション・音楽業界でコラボをするなどが挙げられる。このように、様々な世代に興味を持ってもらい、まずは知ってもらうことを期待できる。
このように、トレンドを取り入れたコラボを通じた「体験」により、新たな顧客を獲得し、京都の文化や歴史を伝えることが必要だと学んだ。
ニッチでローカルなものという立ち位置も次世代に伝統産業を継承するために重要な点であると学んだ。これは伝統産業が特定の顧客層をターゲットにしたもので、「その場所でなければ手に入らない」に価値を置いた戦略であると言える。この戦略は先に述べた、コラボにより新たな顧客を獲得する戦略とは異なるが、まさに逆転の発想である。
新たな顧客の獲得のみが重要なのではなく、あえて客層を絞り込むことで、ニッチでローカルなものという価値を置き、既存の商品と差別化ができるのではないかと考えた。
終わりに
今回のインタビューでは、京都の伝統産業の魅力やそれに携わる方の思いについて知り、次世代に継承していくためにどのような取り組みや努力が必要かを明らかにすることが出来た。また、インタビューを通して考えたことや学んだことを導き出し、最終的に記事という形に残すことが出来たのは私にとって大きな財産になった。私は伝統産業に携わる方の思いに触れたことで、数百年間に及び継承されてきたものを無くしてはいけないという思いが一層強まった。京都の伝統産業を未来に向けて継承するためにもイベントの体験を通してまずは知ることを心掛け、京都に行った際にゆかりのある伝統工芸品について購入し、それを他人に広めていくなどしていこうと思う。
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