見出し画像

「黄色い時計」のゆくえ

「少し早いけど、母の日のプレゼント」
と、子どもがくれた。
置時計だ。

「今置いてあるのは、壊れたっていうか・・・
 止まってたから」
という理由だった。
私のベッドサイドの時計を買ってきてくれたのだ。

二日前、電池切れでその黄色い時計は止まった。
昨日、眠る前にその時計を見て、止まっていたことを
思い出すのだが、「電池交換は明日にしよう」と
延ばしていた。

その止まった時計は、とても思い出がある時計で
ずっと私のベッドサイドにいて欲しかったものだった。
子どもが小学一年生の時に申し込んだ教材に付いて
いたもので、いろんなシールやなまえシールが貼って
ある。
「私が昨日のうちに電池交換していれば、この場所から
動くことはなかったのにな。」
と、思いながら、今日新しくもらった置時計を置く。

新しい時計は、とてもおしゃれでレトロ感があり、
さらには秒針のカチカチ音がしない。
私の好きな色、くすんだグリーンの置時計。
ベッドサイド周りは、一瞬にしておしゃれな空間となった。

しかし、思い出のある、いかにも「子どもの時計」である
その黄色い置時計を、私には処分することはできず、
置き場所を探す。

キッチンの奥には、小さなベージュの置時計がある。
これを玄関に置くのはどうだろう。
常々、玄関に時計があると便利なのにな、と思いながら、
ふさわしい時計が見当たらなかった。

玄関に小さなベージュの時計を置く。
玄関の雰囲気にぴったりだった。

そのおかげで、「子どもの思い出詰まった黄色い時計」は
キッチンの奥へとやってきた。
なんとそれまでは、夜に見るだけの時計だったのに、
キッチンに来たことで、四六時中目に入ることに
なった。

電池を替えて・・・動くだろうか。
古い電池を外したら、緑青(ろくしょう)が発生していた。
いつ寿命がきてもおかしくないんだなあ、と
思って新しい電池を入れる。
まだ動く。まだまだこの時計とは離れたくないんだなあ、
と、キッチンの奥を見ながら、この時計が家に来た頃を
思い出した。
この時計で毎朝起きていた、子どもの顔は忘れない。

新しい置時計をもらった時は、一瞬、
「どうしたものか・・・」と、心の中で思ったのだが、
結果としてベッドサイドには、「ベッドサイドに置いてね」
と、もらった時計を置くことができ、
「黄色い時計」は、違う場所で私の手元にやってきた。

決してキッチンの雰囲気に合う時計ではないのだけれど、
この黄色い時計と、これからも長い時間を過ごしていこう。

子どもに感謝。思い出に感謝。
「母の日」に感謝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?