こうりん (降臨) 16

女神の日常 2
我がスーパーに買い出しに行く時の話をしよう
彼と我が住まいしておる部屋は、女人禁制で女子の出入りを禁止しておる。
これは、大家の意向らしい。
我は女神じゃが、外見は女人なので、大家に分からぬよう、部屋の出入りの時は、彼の容姿を借りる事にしている。
念の為じゃ。
スーパーに行く途中で、彼の容姿から我が姿に戻る。

道路での難関、その一。
道路には、歩道と車道がある。
歩道は、読んで字が如し、歩く道じゃ。
車道は、自動車というものが通る。
こ奴らは結構凶暴で、けたたましく走って行く。
この歩道と車道の境目に段差がある。
歩道に比べて車道の方が一段低くなっている。
この段差が曲者で、歩道から車道に行く時は降りるのでさほど問題はないが、車道から歩道に行く時は上がらねばならん。
我は乳で足元が全く見えぬので、よく躓く。
ま、倒れることはないがの。

道路での難関、その二
幅の狭い歩道が稀にある。
人二人がすれ違うのがやっとの幅しか無い。
スーパーへ行く途中の歩道が全て幅が狭い。
しかも車道側に街路樹と言う木が、間隔を空けて生えておるから、より狭くなっている。
人とすれ違う時は確実に我の乳が相手に当たる。
相手が前を見て歩いておれば問題は無いのじゃが、スマホと言うものを見ながら歩かれると、確実に当たる。
我はなんともないのだが、相手は乳に弾かれて転びそうになる者もおる。
こんな時は、我が横を向いて、相手が通り過ぎるのを待っておるので、買い物に些か時間がかかる。

スーパーでの難関、その一。
まず入口じゃ。
我が近づくと勝手に扉が開く。
女神の我だけか、と悦に浸っておったら、皆の時も勝手に開いておる。
ううむ、天晴れな扉じゃ。
難関はここからじゃ。
左右に開いた扉の間を通ろうとすると、我の乳が両側に引っかかって通れない。
何度試しても、結果は同じじゃった。
後ろで待っておる者がいるので、仕方なく、横を向いて入口を入った。
後ろにいた女人は、この世のものでは無いものを見たように、目をひん剥いておった。
入口を入ると、買い物の籠と台車が置いてあるので、台車の上段に籠を載せ、持ってきた籠を下段に載せて、もう一つ入口を通る。
今度は初めから横向きで通る。

スーパーでの難関、その二
台車 、彼が言う所のカートの高さが微妙なのじゃ。
持つ所が丁度乳の位置に来るのじゃ。
仕方なく持つ所に乳を載せるようにした。

スーパーでの難関、その三
商品が並んだ棚と棚の間の通路が狭くて、先程の歩道と同じ事が起こる。
相手を避ける為に棚に近づき過ぎると、今度は乳が当たって商品が落ちる。
仕方なく歩道の時と同じように、横を向いて相手をやり過ごす。

スーパーでの難関、その四
一度、セルフレジなるものを使って見た。
他のレジが混んでおって、店員から勧められた事もあっての。
レジの前に立つと、乳が邪魔でぴっ、ぴっ、と出来ぬのじゃ。
見るに見かねた店員が、全てをぴっ、ぴっ、としてくれた。
それ以降、セルフレジは使うておらぬ。

スーパーでの難関、その五
店内の至るところでする、ひそひそ話が聞こえてくる。
すべからく、我の乳の事じゃった。
幼女に至っては、堂々と我の乳を触りに来る。
触った後、飛び上がって喜ぶさまは、可愛いものじゃ。
稀に成人と思われる男が、乳を触らせてくれ、と来る事がある。
その時は、
「躻!」
と一喝してやる。

スーパーでの難関、その六
これもレジでの事なんじゃが、レジとレジの間の狭さは何とかならんものなのかのう。
正面を向いては、乳が邪魔で絶対に入れぬ。
横を向いても、乳がレジの台に乗って籠が台に置けぬ。
仕方なく我が先に通ってからカートを引いて籠を台に置く。
それから我が一旦、レジから出てカートを出してからレジ前に戻り、持ってきた籠を、ぴっ、とした商品を置く所に置く。
無事に、ぴっぴっ、が終わるとお金を入れる所に移動するのじゃが、ここも狭い。
我が機械の前に立つと、隣の機械まで乳がはみ出すので使えなくなる。
これは諦めて待ってもらうしか仕方ないのう。

スーパーでの難関、その七
無事買い終えて部屋に帰る為に、駐車場を通って歩道に出なければならんのじゃが、その駐車場が問題じゃ。
乗っておる者は大抵、我の乳を目で追い続ける。
我の傍を通る自動車に乗っておる者はそうなるので、自動車同士がぶつかる。
ま、ゆっくり動いておるので、大事には至らぬようじゃが、白と黒の自動車を呼んだり、話をしたりと面倒そうじゃ。
「我の乳を見ていた。」
と我が原因だと言いたげな輩もおる。
甚だ迷惑な話じゃ。
皆の衆、気をつけられよ。

帰りも歩道と車道の段差に気をつけ、人とすれ違う時は横を向いてやり過ごし、交差点はきちんと信号なるものを守って歩道を渡る。
我が通った後、背後でがしゃん、とぶつかる音がするが、気にとめず交差点を後にする。
途中、人目の無い所で彼の容姿に変わってから部屋に入る。

これが我がスーパーに買い出しに行く日常じゃ。
色々と厄介事はあるが、楽しい。
彼の為に動いておる事が満足じゃ。
おっと、言い忘れておったが、スーパーに行く時はワンピースだけでスカートは穿いておらん。
乳の下で帯を結わえるので、乳が前に迫り出しておる。
もしかして厄介事は、これが原因かのう。

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