こうりん (降臨) 12

最近、ちょっとした事が起こってる。
小さな取るに足らない事なんだけど。
朝起きたら机の上の物の位置が微妙に変わっていたり、本棚の参考書の順番が入れ変わっていたり、食器棚の扉が左右違っていたり。
誰かが触っているみたいで気持ち悪い。
アマテラスに聞いても、触って無いと言う。
「ふーん、思い違いであろう?」
「違うよ、夕べなんか寝る前に写真を撮って、今朝比べてみたらやっぱり場所が変わってるんだ。」
「何か無くなってるものでもあるのか?」
「それは無いんだけど。気持ち悪いよ。」
「実害が無いのなら、もう少し様子を見ておれば良い。」

毎度の事ながら、ダックスでショッピングモールで用事を済ませて帰ってきた時だった。
部屋の入口の前でアマテラスが耳を澄ませた。
「どうしたの?」
「静かに、中に誰か居る。」
「えっ?空き巣なの?」
アマテラスがドアに手をつけて、目を閉じた。
アマテラスが、くすっと笑って言った。
「大丈夫、静かに参ろう。」
僕は極力音がしないように鍵を開けた。
ゆっくりとドアを開ける。
僕とアマテラスは、足音を忍ばせて部屋に入った。
入ってすぐの台所と居間には誰もいなかった。
けど、奥の寝室にしている部屋から物音が聞こえる。
どうやら勉強机の上を探っているらしい。
やっぱり空き巣に入られてたんだ。
犯人と鉢合わせするのかな。
闇バイトで雇われたような凶暴な奴だったらどうしよう。
取るものなんて何も無いのにな。
なんて考えていると、アマテラスが音も無く本当に音も無く、襖を開けて滑るように奥の部屋に入った。
そして、ぱん!、と手を叩いて言った。
「はい!そこまで!動くでない!そのままじっとしておれ。」
アマテラスが襖から顔を出して続ける。
「来るが良い。」
僕はアマテラスに言われるままに、襖まで来て奥の部屋を見た。
「あ、朱美ちゃん?」
ベッドの前でラブドールの朱美ちゃんが立ち尽くしていた。
「どうして朱美ちゃんが?」
人形の朱美ちゃんがどうして?
僕の頭は混乱した。
「付喪神じゃの。」
「つくもがみ?」
「そう、長年愛されたり、大切にされたりした物に宿る妖じゃ。」
「あやかしって化け物ってこと?」
「化け物では無い。神と呼ばれておるが、神様では無い。もののけと呼ぶのがぴったりくるかのう。じゃが、汝れ、よっぽど大切にして居ったのだな。」
「いやぁ、それほどでも。」
「そうか?されば、本人に聞いてみようぞ。朱美ちゃん、何故出てきたのじゃ?」
アマテラスの問いかけに朱美ちゃんが答えた。
「寂しかったの。」
「どうしてじゃ?」
「アマテラスさまが来るまで、毎日毎日、ずっと抱いてくれてたんです。なのに最近は全然抱いてくれなくて。アマテラスさまがいなくなればまた、抱いてくれると思ったの。」
「そうであったか。」
「それで、アマテラスさまの御神体の鏡を壊そうと探していたの。ごめんなさい。」
「汝れには壊すことは出来ぬが、許されることでは無いよのう?」
「はい、反省してます。」
「素直じゃな。しかし寂しいのは辛いものよのう。それは我にも分かるぞ。二千年もの間、ずっと一人だったからのう。」
「そうだったんですか?」
「そうじゃ、だから、我が抱かれてる間、朱美ちゃんも同じ感覚になるようにして上げようぞ。」
「そんなこと、出来るんですか?」
「我を誰だと思っておる?」
「ごめんなさい。」
「では、こちらに参れ。」
「はい。」
ラブドールの朱美ちゃんがアマテラスの前に立った。
アマテラスが朱美ちゃんを抱きしめると、付喪神の朱美ちゃんがアマテラスの体の中に入っていった。
アマテラスが人形の朱美ちゃんをベッドに座らせて言った。
「この人形の付喪神は、我が吸収した故大丈夫じゃ。二度と出てくる事はあるまい。ただ、朱美ちゃんは言っておったぞ。ずっと裸は恥ずかしいと。」
僕は朱美ちゃんに、アマテラスのために買ったショーツと、乳房が巨大化して着られなくなったワンピースを着せてあげた。
ありがとう
どこからか朱美ちゃんの声が聞こえた。
「さて、やや時間は早いが、朱美ちゃんのためにも始めようぞ。一晩中、じっくりと時間をかけてな。」
そう言いながら、アマテラスは着ていたワンピースを脱ぎ始めた。

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