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ソシャゲのバランス設計ってそんなに大事だったんだ…

ゲームアーキテクトの米元です。

今回も、内容としては、複数の実話をベースにした架空サービスでの話…というテイで書いていますが、ちょっと昔、まだ小規模な開発案件が多かった時期の回想になります。

最近では、バランス面のケアができていて売上が維持できているタイトルも比較的多いのですが、なぜこの話をしようと思ったかというと、やはり投資が足りずに売上が保たないタイトルが、まだまだ多いからです。

今回のお話は、昔の話でかつ少し極端な例ではありますが、今でも大なり小なりありそうなお話なので、改めてバランス調整と売上に関して意識啓蒙になればと思い、書かせていただきました。



リリース直前に入った案件にて…


これは、ある案件に入ったときの話である。

こんなお声掛けで、案件に関わらせていただくこととなった。


「もうタイトルのリリースまで1ヵ月を切っているんですが、バランス調整が全然できていないんです……!」


当時のゲーム開発と言えば、比較的小規模な会社さんでも、まだソシャゲ、つまり基本無料のゲームを作っていた時代で、プロジェクト進行管理もあまりかっちりとしていないということも多い時代だった。

するとどうしても、パラメーターなどの目に見えにくいバランス調整は最後の最後まで後回しにされがちであり、この案件でも例外ではなかった。

ただ、ここまでは当時よく見られた『炎上案件』などと言われているものだ。

1つだけ、この案件で違った所と言えば、ギリギリの時期だったとはいえ、バランス調整にある程度投資することを、責任者が決めていたということであった。


バランス調整の重要性の認知度


こういったバランス調整の売上に対する重要性というのは、一般的にはほとんど認知されていない

売上への影響が非常に大きいため、本来であればもう少し認知されても良いのだが、当時は大きな企業ですら、この辺りについての意識があまりなかったのだ。

重要性が理解されていないというと、少し語弊があるが、重要とは考えているが、まさかそこまで重要なのか…というレベルでの認識があまりされていないという方が適切な表現かもしれない。

そんな中で、バランス設計の専門家を呼んでまで、そして費用もつぎ込んでまで、しっかりとバランス調整をしようとする小規模な会社さんというのは、本当にごく稀だった。基本的には、バランスに強いプランナーの人に入ってもらえたらラッキーくらいな程度であった。

ただ、もう時期的に、バランス設計をアナログな手法で行うと間に合わない。そのため、シミュレーションの技術を使い、必要最低限の箇所だけのバランス調整を行うこととした。

とはいえ、本来、バランス調整はゲーム設計時点から考えないといけないものなので、遅くともリリースの1年半前には関わっていなければならない。

案の定、もう殆ど手遅れのような状態だったが、勿論関わらせていただくからにはと、少しでも売上や利益を多く出せるように、最大限の努力を行った。

その結果、メンバーの素晴らしい奮闘もあり、無事にゲームをリリースすることが出来た。そして、リリース当初の売上からの減衰は比較的少なく抑えられ、緩やかな売上減少でタイトルの運用フェーズに入ることになった。


バランス面への投資の理由


リリースしてからしばらく経ったころ、私は気になっていたことを、運用責任者の方に聞いてみることにした。

「どうして、これだけバランス面に投資をされたんですか?」

先程少し触れたが、実際他の会社さんでは、こういったバランス面をあまり重視しない傾向がある。そのため、運用責任者の方が、時期こそ遅いものの、こうしてバランス面を気にして専門家を入れる判断をしたことに、私は少し驚いていたのだ。

そこで、責任者の方は少し遠い目をしたように見えた。そして、

「昔の話ですが」

と、過去を振り返りながら、とあるタイトルの話をしてくれた。


昔のタイトルでの失敗談


「実はうちにも、かつて初月ですごくヒットしたタイトルがあったんですよ。

でも、バランス周りの設計がちゃんとできていなかったせいで、次の月には売上が10分の1にまで下がってしまったんです。

当時、我々はこの辺のバランス面について、今ほどは意識していませんでした。

他の会社さんとかでも、普通に売上キープできているし、まぁ何とかなるだろう、と思って進めていたんです。

ですが、結果はなんとも残念な有様でした。

後から実際にプレイしてみて分かったんですが、1週間プレイしただけで成長も殆ど終わってしまって、ほぼやることがなくなってしまったんですよ。

それでユーザーがいなくなってしまったんだって、その時分かったんです。

その失敗の経験があったので、今回はバランス面をしっかりしようと決めて取り組んだつもりでした。

勿論、過去の話にIFなんてないですが……もしあの当時、バランス設計をしっかりしていたら

今頃あのタイトルはさらに売上を伸ばしていたんじゃないかな、なんて……今でもそういう風に思ってしまいます」


バランス設計の重要性に気付くきっかけ


「……そうだったんですね」


…自分はそれ以上話を続けることをためらってしまった。

繰り返しになるが、バランス設計をしっかりしないと売上は維持できない。

当時の感覚では最早、アプリゲーム含め基本無料ゲームの界隈での常識のはずだ、とまで思っていた。しかし、そういったなかなかこの辺に対して投資をしようとする会社さんというのは少ない。

そして実際、上手くいっていないタイトルは、得てしてゲームバランス面が微妙なことが多い。

だが、たいていのタイトルではおそらく、それがバランスが悪いことによって起こっているということに気付いていないのだろう。


勿論、初月から何十億と売れてしまえば、どんなにバランスが悪いゲームだとしても、その時点で開発費の回収もできるし、売上が下がった状態でもリカバリーへの投資はしやすいので、結果的になんとかなる。だが、月商1億から数億程のタイトルだと、バランスが悪かった場合は売上が一気に下がってしまい、そうなった場合、採算ラインを下回ってしまうので、改修への投資もできず、クローズするしかなくなってしまうのである。


今回の会社さんでは、過去に実際に売上が大幅に落ちる経験をしている。そして、その原因が明らかにバランス調整であることを認識していた。

ここまで極端な暴落のケースは珍しいかもしれないが、そのレアケースに遭遇したからこそ、大抵のケースで軽視されがちなバランス調整を、ちゃんとしようと思ってくれたんだなぁ…と、専門家として複雑な思いを抱えた。


もう一つの課題


「あ、でも別に我々も、当時からバランスの重要性についてないがしろにしていたわけじゃないんですよ。実はもう一つ、上手くいかなかったことがありまして…」

バランスの重要性について認識していたのに、それでも上手くいかなかったこととは何だろうか…と、私が思っている間に、運営責任者の方はさらに話を続けた。

「と言うのも、バランス設計周りについては、出来る人材が業界で非常に限られてしまっていて、そもそも希少人材なんですよね。その上で、実は、バランス設計が出来ますと言った人のスキルのレベルを見抜けなかったことも原因のひとつなんですよ……。

勿論その過去の案件でも、今回の案件でも、出来ますと言った方に任せてはいたんですけど……結果、あんな直前までバランス周りが全然出来ていない、なんてことになってしまいました。

なので結局の所、我々には、出来ると言う人のスキルを見抜くことが出来なかったり、痛い目にあったりした経験があるので、他の会社さんでもこういったバランス周りへの投資に及び腰になることが多いんじゃないかなと思います」


…そういう事情があったのか。その話が妙に腑に落ちて、思わず頷いていた。

確かに、そういったバランス面をしっかり調整できる人材というのは限られている。多くはやはり、大手の会社さんなどが囲っているケースも多いので、なかなか今回のような小規模な案件までちゃんとした人が回ってこないという実情もあるのだろう、と改めて感じた。


失敗はいつから決まっていたのか


「でも…」

最後に、責任者の方が、名残惜しそうに呟いた。

「どうしましたか?」

「 バランス調整って、単に直前にパラメータを設定するだけでは駄目なんだと、教えていただけて良かったです。そこまで早期からやらないと難しいものなんですね。一回失敗していたのに、まさか、って気持ちですよ。

たしかに、レベルアップの成長機能だけで、長い時間かけないと強くなれないようにするには、レベルを上がりにくくするような渋い設定値にすればいいだけと思っていて、単純に我々はそれを渋くしなかったのが良くなかったんだと思っていました。

でも、レベルアップしか強くなる道がないようなゲームでは、いくらレベルが上がりにくくしても長い時間遊ぶ前に飽きますし、ちゃんとレベルが上ったらそれに相当する難しいダンジョンとかクエストを用意しないといけないですもんね…

また、もしもの話になってしまいますけど、リリースのもっと前から気付いてご相談させていただければ良かったなって、今となっては思います」

「……そう仰っていただけるだけでも、嬉しく思います。貴重なお話をありがとうございました」

そう伝えると、責任者の方は最後に挨拶をして、去っていった。


実は、ゲームのバランス調整の難しいところは、数値設定の部分だけで完結するものではなく、その上流、ゲームのサイクルとそれを実現するためのロジック設計からしっかりと設計しないといけない点にある。

なので、逆を言うと、このタイトルは1年半以上前から既に失敗が確定していたということになる…。

何ということだろう。

責任者の方は、一度目の失敗から、しっかりとバランス調整の重要性を理解してくれていたのに、再度躓いてしまうとは……。どうにもならなかったとはいえ、お手伝いさせてもらったにも関わらずこんなことになってしまったというのが、非常に悔しかった。

せめて、こういったバランス設計周りの重要性をしっかりと世の中に広めて、 せっかくゲームクリエーターの人が丹精込めて作ったゲームを、もっと長く遊んでもらえるようにしたい…!

そう思いつつも、まずは目の前の運用をしっかりと安定させるところに注力しよう、と意気込んで、イベントのバランス調整に取り掛かり始めたのだった。

あとがき


今回も何タイトルかで起こっていた話をベースにした架空の話で、かつ具体的な技術面の話は書いていないのですが、当時はこういうケースが結構ありました。

重要なのは、バランス設計は重要だけど、そこまで影響しているなんて…という風な反応を頂くことが結構あったので、改めて、このようなお話を書かせていただきました。

もし、原因不明のタイトルの売上低下に苦戦しているという方は、もしかしたらゲームバランス設計に課題があるかもしれません。


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