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私の音楽遍歴(その二・中学生時代)

中学生になってまもなくの頃だったと思うが、自作の曲をピアノの先生に見てもらったことがあった。「弾いてみて」といわれたので弾き始めたら、先生は教室の奥に引っ込んでしまってなかなか出てこない。しばらく待っていたら、こっちへいらっしゃいと呼ばれて、それまで入ったことのない奥の間に通された。そこで目にしたのは、何冊かの古びた本。先生が若いころ勉強していた音楽関係の本だと聞いた。楽典の教科書とか、音楽関係の評論とかいった本があって、それを全部貸すので読んでみたら、と言われた。
要するに、先生はピアノの手ほどきはするけど、それ以外のことは自分で勝手にやってね、ということだったんだろう。

教科書はつまらないので放っておいたが、中に一冊、山田耕筰の著書があった。それは旧仮名遣いで、かなり読みにくいものだったが、最初から読んでみる気になった。書名は忘れたが、昔の大音楽家を根こそぎぶった切って、ある同時代の作曲家(名前は忘れた)の作品こそが真の芸術である、といった趣旨の評論のような内容だった。かなりうろ覚えだが、例えばベートーヴェンについてはこんな感じで書いて、ばっさり切り捨ててあった。

独逸人(注:ドイツ人)は、かういふ単に巨大と言ふべき構築物を作ることにかけては・・・云々(でんでんではありません)

要するに構造が大きいだけのものだと。

それまで偉人伝しか読んだことがなかった中学生には、かなり面食らう内容だった。そういう考え方もあるのか、と思った反面、なぜそこまで言う必要があるのか、とも思った。
今なら、そうは思わなかっただろう。耕筰には、これまでと違う音楽を作ることこそが、芸術家の使命だという前提があって、そのために、古いものを否定する必要があったのだと思う。
それにしても私がプロの道に入らなかったのは、この著書を読んだからに違いない。私には、プロになって先人を超えるような独自の芸術を目指すことよりも、先人の芸術を自分なりに楽しむ今の生き方の方が、性に合っていたと思うから。


この頃、町の本屋さんで音楽の専門書を漁っていた。
和声学、対位法、それから作曲法の専門書など。
見出し画像は、当時少ない小遣いから1800円もの大枚をはたいて買った上下二巻の作曲法教程

これはかなり専門的な本なので、地方の本屋で売っていたとは驚きだが、近くに大学の教育学部があったからだと思う。たぶん、音楽関係の学生向けのテキストとして利用されていたものだろう。中学生に理解ができるとは思えないし、実際のところ理解できなかった。何しろこの教科書は発行が1950年、つまり昭和25年。古い本なので旧字体で書かれている。中学生がまともに読めていたはずがない。もちろん今でもかなり読解困難である。
ただ、声楽の作曲法について書かれた上巻の方は、理解できなかったとしても、一応最後まで目を通した記憶がある。読んだ気になっていただけと思うが、影響を受けたのは確かだ。当時合唱曲を一つ実作している。

この頃の姉は高校生になっていて、彼女が中学生時代に所属していた合唱クラブで使っていた合唱曲集が、ピアノの上に放置されていた。
好奇心一杯の中坊がそれを見逃すはずがない。中学校の合唱クラブは、男子に人気がなく、全員女子だったせいだろう、姉が使っていた合唱曲集は、女声用のものだった。もちろん私は歌いたかったのでも、曲に興味があったわけでもなかった。興味の対象は歌詞だった。自分でも合唱曲が作りたいと思ったのだ。作詞をする気は全くなかったので、手近の合唱曲集から、歌詞を拝借しようという魂胆だった。曲集の作曲者も作詞者も、いずれもご存命の方だったから、完全な著作権侵害なのだが、どこかに発表するつもりもなく、好奇心で作ってみたいと思っただけなので、大目に見て頂きたい。

当時私が作った合唱曲は、ほんのメモ程度だが楽譜が残っていた。
楽譜には三部合唱用の3つのパートとピアノ伴奏のパートがあった。合唱パートは、歌詞に合わせた形で全部出来上がっていたが、ピアノ伴奏は序奏部の他は、ところどころしか書かれておらず、ほとんど空欄になっていた。
最近になって、その空欄を埋めてピアノ伴奏を完全なものにしたいと考えて、一応体裁は整えてみたのだが、もとの歌詞はまだ著作権があって使えない。
でも、歌詞を変えて、曲もそれに合わせてリメイクすればいいじゃないか、ということで曲にぴったりの歌詞を探していたら、ある音楽投稿SNSサイトで、素敵な詞を出されている方を見つけた。

その方は、まほうびんさんと仰る黒猫さん。
noteにも、こちらにいらっしゃった。^^

まほうびんさんは、作詞作曲の両刀使い。心に訴える童謡を作られる方で、noteにもオリジナルの童謡を何曲かアップされている。
そのうちの一つがこれ。

まほうびんさんはコミカルな作品も持ち味で、私が白羽の矢を立てたのは、そっち方面の詞だった。
作詞作曲をされる方なので、私が音楽を付けていいものかと思ったのだが、快く付曲のご許可を頂いた。
詞は、春の季節感に溢れるもので、タイトルは「お稽古ぶそく」。
ウグイス君たちの歌なので、今の季節には合わないが、話の成り行き上、紹介させていただきたい。

お稽古ぶそく
詞:まほうびん
曲:古い音楽帳(音楽帳工房)
歌:さとうささら・緑咲香澄・ハルオロイドミナミ(CeVIO)


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