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猫のフン詰まり(その一)

かわらを飼い始めて間もないころの話をしよう。
これはタイトルにある通り、単なる猫のフン詰まりの話だが、まだ小さかったかわらが一度死にそうになって、そしてまた元気になった記録でもある。

もう5年以上も前のことで、当時の記憶もかなり薄れかけている。
ただ、ブログの下書きがパソコンに残っていた。
ブログ自体はもう残っていないが、その下書きをもとにして、こちらに再録という形で書いておきたい。

かわらは、当時まだ500グラムに満たない子猫だった。
一度下痢をして、その後まったくウンコが出なくなった。
いきむのだが少量の液便が漏れ出てくるだけ。

これは私も、便秘の時に経験がある。
詰まった奥から、じわじわと滲みだしてくる時のあれだ。

これは大変!ということで、近くの動物病院にかわらを連れて行った。
診察していただくと、これは便秘ですね、浣腸してみましょう、ということになった。
ところが、やってみると浣腸がきかないという。
何故か、薬が奥に入らない。

これは変だということで、専門病院で診察してもらう手配をして頂いた。
そこは、犬猫など小動物を対象として、がんなど、高度な手術が必要になる病気に対応できる専門病院、と聞いた。

その専門病院は、車で2時間ほどの距離にあった。
すぐ出かければ、その診療時間に間に合う。
私が車を運転して、家内には後部座席でケージに入れたかわらの相手をしてもらった。
その時はまだ、かわらは動き回る元気はあった。
出せえーっ、と言う感じで鳴くので、家内が出してやると、運転席の背もたれをよじ登ってきて、運転している私の肩の上に乗った。

子ねこを肩に乗せて車の運転!

それは、後にも先にも、その時だけの経験だった。
かわらに何の問題もなければ、それは楽しいドライブだったかもしれない。
だが、その時は一刻も早く専門病院に着きたい、その一心だった。
途中、何度も渋滞に巻き込まれたこともあって、心の余裕はなかった。

専門病院に到着すると、まず同意書にサインを求められた。
万一、治療中に亡くなっても、文句は言いっこなしよ、というあれだ。

近所の動物病院はもちろん、私のかかりつけの医院でも、そんな同意書は見せられたこともなかった。

ここは、生死紙一重の動物たちの治療・延命のための病院なのだ。

それを改めて認識して、身が引き締まる思いがした。

その病院には待合室がなく、いくつかの診療室に沿って続く廊下に、長椅子が置かれているだけだった。
そこに家内と共に座って待つと、すぐに名前を呼ばれた。
必要なデータは、最初に診て頂いた近所の動物病院から届いていたらしく、早速内視鏡を入れてみましょう、ということになった。

廊下で診療の結果を待っている間、壁に貼られたペットたちの写真を眺めていた。
手術に欠かせない献血に協力してくれたワンちゃん・ネコちゃんたちの名前に、可愛い写真が添えられていた。
うちのかわらにも、フン詰まりが治って大きくなったら、献血に協力してもらおう。
そんなことをぼんやり考えながら、どのくらい待っただろうか、再び名前を呼ばれた。

診療室に入って先生のお話を伺うと、内視鏡を入れようとしたが、途中から全く入らなかったので、造影剤を入れてレントゲンを撮ることにしたという。
だが、造影剤もうまく入らない。
それでも、入るだけ入れてレントゲンを撮ったら、どうも直腸の一部が狭くなっているようだと。
先生も、初めて見たという。
そしてこれは、先天的なものかもしれないと。

写真を見せてもらって唖然とした。
これは、狭いというようなものじゃない。
完全にくびれている。
造影剤は、くびれた先には全く入っていない。
こんな状態で、その奥にある固くなったウンコがどうやって出てくるのか。

まだ生後2-3か月ほど。
体重400グラムの小さな体。

手術はできない。

はっきり言われた。

小さすぎるのだ。
手術は、人間業では不可能。
もともと猫の腸は薄いので、成猫でも腸の手術は難しいと聞いた。

家内は、レントゲン写真を見せられた時点で、もう半ばあきらめたという。

(続く)

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