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しゃべることを捨てた

こんな生徒に出会えた。

エフくんは、小学校の高学年のとき
絶対しゃべらないと決めたらしい。

私と会ったのは、高校一年生。
背が高くてスポーツでもしてそうなルックス。

普通に話かけた私を
まっすぐ見たけれど
一言も話さない。

まるで薄いバリアが貼られていて
聞こえないか、私が話かけたことすら
知らないみたいだった。
いわばテレビの消音のような状態。

話かけられて、困ってるような感じもなければ
怒ってもいないし、無の状態。
話かけた私が間違えたことをしてしまったんだなって、申し訳ないような気になった。

エフくんの世界には 話すという道具がないみたいだった。

ご両親に聞くと
お家では普通に話すらしい。テレビを見て アハハと笑い、特にアニメが好きらしい。
ゲームをしては、時々熱くなってバカ!と言い、お母さんには、たまに偉そうにしたりする。

「えっと。。それってエフくんの話ですよね?」
と聞き返さずにはいられなかった。

幼い頃から ご両親の愛情をいっぱい受けて育ったエフくんは、割と大人しい性格だった。
年の離れた兄がやんちゃでよく怒られていたため、手の掛らないエフくんは、好きなことを好きなようにさせてもらえていたらしい。

近所の友達にはよくドッチボールやサッカーに誘われたが、それにはあまり参加せず、小学校では図書館が好きで休み時間には本を読んでいた。
1人でいることが割と好きで、本の中が自分の居場所だった。




そんなエフくんに事件が起こる。
それは、小学校高学年の英語の授業。

外国人の先生が果物の名前を言うので
それを、英語で言うという授業だった。
担任の先生も横で見守る。

「りんごは?」
「あっぽー!!!」

「みかんは?」
「おーれんじ!」

「ぶどうは?」
「ぐれーぷ!」

順番に、どんどんみんな正解していく。
エフくんの番が来た。

「桃は?」
ちょっと考えてエフくんは言った。
「ネクター」
しばらくの静けさのあと、みんながドッと笑った。

外国人の先生はからかわれたと思って
怖い顔をして怒った。
クラス全員がお腹を抱えて笑い転げる。
担任の先生が慌てて止めに入った遅かった。

エフくんは次の日から
学校に行かないということと
外でコトバを使わないということを決めた。

そんなことで?
と聞いた人は笑うだろう。

お笑いでいうところのオイシイという場面なのだとも思う。

だけど、当時10歳のエフくんの
感じた恥ずかしさや怒りや悲しさを
想像しただけで
私は震えた。

それから5年間
彼は外で一言も話すということをしなかった。
私は彼が戦っている真っ最中にエフ君と出会った。

だけど、そこから3年後
紆余曲折の信頼関係構築の後

彼は自分の好きなときだけ
話をポツリとしてくれるようになる。

それはまた次回のお話に。
世の中には
色々な人がいて
みんな違ってみんな良い。




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