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ベーシックインカムってなんだ?(2)

5 財源問題

前回は、ベーシック・インカム(以下BI)に期待されるメリットを見てきたが、いずれも定性的なものだった。今回はBIの課題について見ていく。

《BIのメリットについて》
▶ ベーシックインカムってなんだ?

・ブラック企業の減少
・暴力的な配偶者からの自由
・育休期間の長期化
・行政の効率化
・起業や自由な開発の増加
・交通事故の減少
・学業成績の向上
・東京一極集中の緩和(地方での生活者増加)
・少子化の改善

まずは財源について。こちらは定量的にインパクトのある数字が出てくる。

現在の「生活保護給付水準」を前提に、BI導入賛成派が提案する月額7万円すべての国民に支給することを考えると、毎年必要となる予算は105兆円(=7万円×12ヶ月×「1億2500万人」)。

※生活保護給付水準について
厚生労働省資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000488808.pdf
生活保護受給者約200万人に3.8兆円。うち半分は医療扶助と介護扶助。現金給付の住宅扶助と生活扶助がBIに代替されるとすると7万円は合理的。
※2021年1月時点の日本の人口推計:1億2557万人
総務省統計局資料:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202101.pdf

BIは現在の所得保障制度に代替する形で導入されるため、105兆円満額新たな財源を見つけてこなければならないわけではない。
とはいえ、貧困対策目的の所得保障として挙げられる生活保護(生活扶助と住宅扶助)1.9兆円、老齢基礎年金20.0兆円、児童手当1.7兆円、雇用保険1.5兆円を合わせても25兆円にしかならず(数字は2021年5月時点で得られる社会保障統計年報のもの)、
不足分の80兆をいかに手当てするかが課題となる。

恒久財源のアイデアなくしてBIの実現は難しい、というのが率直な感想。

財源に踏み込んだ検討として、原田泰「ベーシック・インカム」中公新書(2015年)。以下に財政的手当の第3章概要を載せる。

原田氏の場合、
支給額は20歳以上に月7万円、
    20歳未満には月3万円で、96.3兆円の予算が必要としたうえで、
新しい所得税制(所得控除を辞めてBIに置き換え、同時に所得税を一律30%税率で設定)によって、77.3兆円を確保(差引き19兆円の不足)。

これに、上記新所得税制で失われる現行所得税収13.9兆円を足した32.9兆円をどのように賄うかという形で試算を展開。
老齢基礎年金16.6兆円、子ども手当1.8兆円、雇用保険1.5兆円をBIに代替させて廃止することで19.9兆円を代替財源とする。

そして、公共事業予算5兆円、中小企業対策費1兆円、農業水産業費1兆円、福祉費6兆円、地方交付税交付金1兆円は、雇用と所得を無理やり維持するための支出と認定し、
医療費を除く生活保護費1.9兆円と併せて
15.9兆円を文字通り絞り出すことで、財政的に実現可能としている。
(数字データは2012年時点)

6 BIへの批判に答える

勤労意欲がなくなる!
確かに、月50万円もらえるとしたら会社を辞めてしまう人が続出するかもしれないが、月7万円だとしたらどうだろう。贅沢には程遠い生活水準であるし、働けば働くほど所得が増える社会で暮らす我々は、本当に働くことを辞めるだろうか。これについては支給額による!と回答したい。

迅速かつ効率的な現金支給ができるのか?
2020年4月、全国民へ一律10万円を給付する特別定額給付金を国は決定したが、諸外国に比べて給付手続きに相当の時間と費用を要した
政府がマイナンバーと紐付けて個人の銀行口座情報を管理しておらず、政府と国民との間で現金をやり取りする仕組みを整えてこなかったのが原因なので、銀行口座とマイナンバーで管理するインフラが整備されればもちろん可能。
迅速な給付をオンラインで行うためのシステム構築は、これからの社会保障政策の効率的運用のためにも、生活保護制度の利用率アップのためにも必要だから、BI導入の賛否に関わらず、行政のデジタル化を推し進めてほしい。

社会保障政策は現金を支給すれば済むものではない!
これはその通り。BI導入しても現行の社会福祉政策や医療保険は必要。多くのBI導入賛成派も障害者や傷病者への支援制度や医療保険制度をBIに代替させようとはしていないので、誤解に基づく批判。
議論を空転させないために、BI導入で今あるどの制度を廃止・縮小しようとしているのか、確認しよう。

7 BI導入に向けて越えなければならない真の課題

ハードル1:財源の設計
前述の通り、財源論は最大にして最難の障壁
導入賛成派の論者の多くは具体的な制度設計ができていないように思える。財源は「後で考えればいい」とか、「お金持ちの皆さんに所得税率の一律15%アップを許容していただきたい」などと言うのでは、絵に書いた餅感が否めない。

ハードル2:BI後のケア
支給されるBIをギャンブル依存で使い切ってしまう場合や借金のある人が利子払いにBIをあててしまう場合など、BIの使い途は支給を受けた個人に委ねられており、個人責任の負担が重くなる。
また、子供に支給されたBIを親が使ってしまう場合も問題。
BIの背後にさらなるセーフティネットが検討されていないため、民生委員やケースワーカーなどBIの使途につきケアする人と体制をセットで考えなければ、BIを導入しても貧困は解決しない。

ハードル3:美徳
働かざるもの食うべからず。汗水垂らして働くことこそ美徳という道徳観念を有している人が一定数以上いると思われるので、BIが制度として成立し得てもなお、BI導入に積極的に反対する勢力が存在する。政治的に説得していく必要がある。

ハードル4:制度移行の困難さ
・仮に、財源の確保やBI使途に対するケア体制を設計できたとしても、長い年月をかけて作られてきた個別の所得保障制度が現実に走っている日本において、全体を見直してガラガラポンでBIに置き換えるというのは、更地にゼロからシステムを構築するよりも難度が高い。
たとえば、保険方式を採用している年金制度。今まで保険料を払ってきた国民に、それをチャラにして一律7万円のBIに変えますと説明して納得してもらえるのか。

8 おわりに

独り歩きしている「ベーシック・インカム」という言葉を定義し、期待されていることと課題を整理してきたが、いかがだっただろうか。

読者の皆さんのBI導入賛否を考えるきっかけにしていただいたり、
感覚やイメージ先行のBI論争の場でファクトに基づく見解をあなたが述べる一助となれば、光栄に思う。

行政書士法人 全国理美容コンサルティング
~小さなサロン、大きな未来~
webサイト:https://ribicon.or.jp/service/job/

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