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年金格差は存在するか

昨日3月8日の国際女性デーに際して、『東京新聞』がこんな記事をネットに載せた。

女性の年金受給額は男性の3分の2であるという煽情的なタイトルで、あたかも高齢の女性が(男性に比べて)不利な状況に置かれているかのように書き立てている。

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詳しく裏取りをして検討をする余裕はないので、この記事の内容をざっと眺めてみよう。

この記事では「65歳~69歳」から「85歳以上」まで5歳ずつに年齢層を区切り、「単身高齢世帯の公的年金・恩給給付の年間受給額」の男女差を示している。男女差が最大の85歳以上では、年54万円もの差があるという。

しかし、である。現代日本の平均寿命は、男性が81歳、女性が87歳だ。仮に65歳で受給を始めて平均寿命まで生きるとして計算すると、総額では女性の方が120万円も多く受給することになるではないか。

男性 218万円×16年=3488万円
女性 164万円×22年=3608万円

これは一年あたりの男女差が最も大きいという85歳以上の場合なのだから、それ以下の年代では総額の男女差はより女性に傾くことになる。

現代社会において、女性は男性に危険な労働の負担を押しつけて健康長寿を享受している。言わば女性は、本当はあと6年生きられたはずの男性を殺し、その命を啜ってその分長く生きているのだ※。それで「女性の方が受給額が少ない」と問題視するのはお笑い草というものだろう。

(※といっても、別に私は「女性」という存在を責めたいわけではない。これは男性差別的な社会構造のせいであって、個々の女性はその制度の中で自分の役割を生かされているにすぎないのだから。もし男性差別を100%全て「女性」だけの責任に帰するなら、ラディカル・フェミニストが主張する「男性が共謀して男性優位な社会を作っている」という、愚劣で荒唐無稽な陰謀論と、どんぐりの背比べになってしまうだろう。)

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さて、細かいところを見ていこう。

先の統計は「単身高齢世帯の公的年金・恩給給付の年間受給額」であった。記事中でも触れられているとおり、「年金政策は『世帯』が考え方の根本となってきた」。単身でない、すなわち夫婦ともに生きている世帯であれば、現役時代と同じ家計の方法が年金になって続くだけである。すなわち、現代日本では多くの場合、家計を管理する権利は妻が持つ。

記事中では、「夫は自営業だった。厚生年金と違って遺族年金はなく、受け取れるのは自分の年金だけ。」と、さも不利な条件にあるかのように述べられている。だが、遺族年金を受給する条件は男性の方がはるかに厳しい。それを無視して「女性なのに遺族年金を受け取れない」ことを書き立てているのだ。まるで伝説の「女性でも慰謝料払うんですか」のようではないか。

ところで、国民年金にも寡婦年金があるはずだ。「受け取れるのは自分の年金だけ」は端的に言って嘘だろう※。

(※この個別のケースでどうだったかは知らないし、知る由もない。)

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寡婦年金の他にも、遺族厚生年金の中高齢寡婦加算経過的寡婦加算のように、女性だけに有利な年金の仕組みは沢山ある。だが、「男性」を理由にして有利になっている年金制度など一個もない。

男性の受け取る年金額が多いとすれば(実際には寿命の分女性よりずっと少ないと見込まれるのだが)、それは男性が自分の健康と命を削って妻のために金を稼ぐ役割を負わされているからに他ならない。結局、この話は年金の話ではない。お馴染みの賃金の話に戻ってくるのだ。


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