見出し画像

野良ネコに家を...2:第10話 絶世の美女

⑩絶世の美女

コニャに名前を付けた。命名「トラ」。
…そのままかい!

いえいえ、本名は「クレオパトラ」。略してトラ。
キジトラと言えば目の横からのびる黒いラインが特徴的。まるで古代エジプトのメイクのよう。そして母猫に似て器量よしだから、クレオパトラ。
そう、トラといっても女の子なんです。(ちゃんと確認した。)
さらに「トラ」は日本の猫として古典的な名前。和と洋の歴史を踏まえた名前なのだ!
昔、ある愛猫家さんが「猫の名前には長い物語がある」と言っていたのは本当だった。

画像3

ちなみにギリシア人はトラ猫を見かけると「ティグリス!」と声をかける。直訳すると「トラ」。日本人と発想が同じ。
メソポタミア文明でおなじみのティグリス川は「トラのよう(に早く駆ける)な川」という意味。英語のタイガーの語源。

トラは少しずつ私に慣れてきた。
朝食を食べ終わって満足すると、親子そろって口の周りをペロペロしたり、手で口元を洗ったり。もう、たまらん♡
砂利の猫道と隣家との間には金網のフェンスがあり、その5×6センチほどの格子を、小さなトラはすり抜けて自在に行き来していた。

画像1

だが、徐々に窮屈になり…頭は入っても体がつかえるようになった。ジタバタしながら無理やりくぐり抜けようとするのを、私はハラハラしながら見ていた。仔猫はすぐに大きくなる。

ある日、珍しくママニャンがうちの前を通りかかった。いつもママニャンは忘れたころにやってくる。
お、ママニャン、久しぶり。元気?ちょっと何か食べてく?
私は急いでネコ用にぼしを数匹ひっつかんできて、ママニャンにやった。
むしゃむしゃ食べる様子を見ているその時、気づいた。おお、ママニャンもやられちょる!
ママニャン、さくら化完了!手術されたのか。

なんだかちょっと寂しい気もする。もうママニャンがうちの周りで子育てすることはない。いや、しかしこれでいいのだ。
そうそう、ママニャン、あなたの孫が生まれたよ。

トラは、朝ごはんがもらえるのは当然、と毎朝玄関で待つようになった。
うちの玄関ドアにはすりガラスの部分があるので、ドアのすぐ外に猫が座っていると分かる。
もはや砂利の猫道でご飯のデリバリーを待つのがもどかしいと言うように、トラはガラスに顔をくっつけて家の中をガン見!
…思い切り覗かれてるんですけど。
トラちゃん、朝から笑かさないで!はいはい、ご飯ね、ちょっと待って、いま行くから。

画像2

出勤前の時間がない朝は、とにかくぱっとご飯トレーを置いて出て、帰宅してから回収。
だがある夕方、トレーを取りに砂利の猫道に入るとトレーがバラバラになっていた。力任せに引きちぎられたようだ。破片が散乱している。そんなことが何度か続いた。
ここは他人が立ち入るような場所ではない。これは一体…

→2・第11話「ライバル出現」に進む

←2・第9話「自然の洗礼」に戻る

いただいたサポートはうちの中や外にいるネコさまたちへの奉仕活動に使わせていただきます。