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i

西加奈子さんの本は初めて読みました。最初の文体のリズムが「合ってる」と思ってからは早かった。

主人公の「アイ」が自身の生い立ちや生きた環境や目まぐるしい世界情勢の中から自身のアイデンティティを探していく物語。想像の及ばないような境遇の登場人物に対し、それでも自身の些細な「日常」の「揺れ」を重ねてしまうのは、読み手を惹き込む描写や文章の隅々まで行き渡らせた作者の精魂を感じるからだと思う。

ラストに向けた胸の詰まるような展開の中で、何度も何度も涙が溢れた。きっと女性の立場からだとまた圧倒的に違った感じ方になるのだろう。

久し振りに一生大切にしたいと思える物語に出逢えた。「衝撃」とか「感涙」とか安っぽい謳い文句では物語の精度を濁してしまい、申し訳ない気持になるのであまり使いたくないけれど、自分の語彙力ではつい頼らざるを得なくなる。まだまだ努力したいなと思う。

正直これだけの読後感は想像していなかった。「想像」すること。それがまさに「救い」となる。自分に言い聞かせるように大事に抱えてきた言葉がここで報われた。自分は間違ってはいなかった。まさに「i」を肯定されたような気持ちになった。

個人的にこのタイミングで読めてよかった。将来語り継がれていく物語になるのだろうけど、巻末に又吉氏も述べているように「今」触れるからこそ、ビビットに感じれるものがあると思う。

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