日本を元気にしようとした若きスケーターたち〜鍵山優真選手〜

世界ジュニア選手権が終わり、Twitterでは結果についての阿鼻叫喚が流れていました。

メディアの報道も急速に手のひらを返したように…。

期待が高かった分、仕方がないといえばそれまでですが、どこかモヤモヤした気持ちで報道を見ていました。

そんな中、長久保豊カメラマンのお言葉が心に刺さりました。

これは、表彰式でずっと硬い表情をしていた鍵山選手に長久保さんが声をかけて引き出した満面の笑顔です。

ああ、この言葉が自分は聞きたかったんだ、と思いました。
期待した結果などではなく、彼らの頑張りを認めてくれる言葉を求めていたのです。

今回は、世界ジュニア選手権で銀メダルを獲得した、鍵山優真選手について書かせていただきます。


銀メダルにも笑顔なし。その理由は…

世界ジュニア選手権で銀メダルを獲得した鍵山優真選手ですが、演技直後に両手で顔を覆ったときからずっと、表情は硬いままでした。

本人が金メダルを獲りたかった、というのはもちろんでしょうが、日本スケ連からも、メディアからも、そして多くのファンからも多大な期待を寄せられていたのもわかっていたはずです。

なにより、親友でライバルの佐藤駿選手との約束がありました。


二人の約束

全日本ジュニアで優勝後、鍵山選手が口にしていた約束。

「二人で共にいい演技をして、表彰台に立つ」

このときは1位と2位で終えたものの、佐藤選手の納得いかない演技に彼もまた、納得いかない様子でした。

以前、二人が共に出場した国際試合はJGPファイナル。
そのときも、優勝候補と多大な期待を受けていた鍵山選手。

もちろん共に出場した佐藤駿選手にも期待がかかっていました。
ただ、当時好調をキープしていた鍵山選手は国内海外共に優勝候補と予想されていたのです。

結果はSP、FS共にらしくない痛恨のミスが一つずつあり、まさかの4位。
本人も悔しそうな硬い表情で唇を噛み締めるようにして得点を見ていました。

優勝したのは親友でライバルの佐藤駿選手。
当時、不調とも思える状態から脱却した最高の演技でした。

「俺がノーミスしてもあの得点は無理だったよ」

優勝した佐藤選手にそんな言葉をかけていた鍵山選手。
ライバルを尊敬する気持ちと共に、密かな闘志も感じさせていました。


シニアの大舞台で再び輝き、世界ジュニアへ

密かな闘志が感じられた鍵山選手の思いはすぐに形になっていきました。
シニアの全日本、四大陸選手権共に3位の好成績。

全日本ではライバルの佐藤選手を上回る逆転劇でした。
そして、今度は世界ジュニアでISU公認の優勝候補に。

状況はJGPファイナルのときと一緒でした。
「もうプレッシャーに負けない」
そんな発言もしていたところを見ると、JGPファイナルでの悔しさは深く刻まれていたのでしょう。

そんなプレッシャーに打ち勝ったSP。
鬼門ともいわれたこのプログラムをパーフェクトにやりきった彼は、胸に手を当ててふっと息を吐く姿は、大きなプレッシャーがあったことを物語っていました。

常に表彰台争いをしてきたロシアのモザリョフ選手をかわし、堂々の首位に立ちます。

ライバル佐藤選手も少しの点差で5位。共に表彰台を狙える未来が見えていました。
二人で仲良く違いを応援しあい、幸せそうに笑っている姿は、コロナ騒動で暗いニュースばかりの日本に幸せをもたらす貴重なニュースでした。


首位で迎えたフリーで立ちはだかる壁

いよいよ誰もが優勝を疑わない状況に。
共に公式練習の調子も良く、期待の声が高まります。

そんな中、迎えた直前練習では一人、嫌な予感をおぼえていたという鍵山選手。
ジャンプがはまらない不安を抱え、練習を終えました。

そして迎えた本番…自信を持った4Tを失敗する彼らしくないミス。

焦りからか他のエレメンツも少しずつ精彩を欠き、ついに痛恨のアクセル抜けで、大きく点を落としてしまい、演技終了後は両手で顔を覆いました。

表彰式では金メダルよりも、自分の演技ができなかった悔しさが滲み出ていました。


彼らが日本を元気にした事実

マスコミの報道は

「鍵山優真2位 SP首位もV逃し両手で顔を覆う」
「鍵山、4回転で転倒…モザレフに逆転許し銀メダル」
「鍵山優真2位 SP1位も痛恨…ジャンプでミス」

世界ジュニア銀メダリストを讃えるようなタイトルは見られなかった。

確かに金メダルが狙える試合だったし、彼本来の演技ではなかった。
それにしたって、あまりの仕打ちに思えた。

1、2フィニッシュへの期待。
5年ぶりの世界ジュニア優勝への期待。
SP首位で好発進のニュース。
お互いを応援しあう仲の良さと幸せな笑顔…

それら一つ一つが日本にとって幸せなニュースだった。
間違いなく情勢の影響で暗くなりがちだった日本に元気をもたらしていた。

そんな彼らが期待した結果と違った(といっても、表彰台自体5年ぶりの快挙)だけで、手のひらを返したような報道にモヤモヤした。


日本に幸せなニュースを運んでくれてありがとう

だからこそ、長久保さんの言葉が本当に嬉しかったのだ。

「ちゃんと見てくれている人もいるんだ」

そう伝わったから。

鍵山選手は間違いなく、

「ダメな大人に代わって日本を元気にしようとしてくれた」

若者の一人。

同じスケート界でもクープドプランタン派遣中止などのニュースも流れ、仲間の分までという気持ちもあったはず。

たくさんのものを背負って最後まで表情豊かに踊ってみせてくれた世界ジュニア。

まずは鍵山くん、本当にありがとう。


次回も引き続き、世界ジュニアの選手たちについて綴っていきます。


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