日本を元気にしようとした若きスケーターたち〜佐藤駿選手〜

前回に引き続き、日本を元気にしようとした世界ジュニア出場スケーターのお話をします。

今回は佐藤駿選手

世界ジュニア選手権代表で、鍵山選手と同じく優勝候補と期待されていた選手です。

なんと4回転のルッツ(2番目に難しいジャンプ)を跳ぶことで、一躍話題になった。

高難度ジャンプには特に自信を持っており、「誰にも負けたくない!」と本人も話すほどの実力者。

また、JGPファイナル優勝者でもあり、世界ジュニアでも優勝すれば”二冠”となり、先日羽生選手が達成したスーパースラム達成の可能性も高かった。

開催の少し前には埼玉のリンクで公開練習も行い、メディアの注目が集まる中で4回転ルッツを黙々と成功させていた。

まさに好調であり、優勝か表彰台かと信じて疑わない状況だった。


「優真と一緒に表彰台」が目標

彼が繰り返し口にしていたのが「優真と一緒に表彰台に上がりたい」という願望だった。

一人で優勝できれば良いわけではない。
二人とも良い演技をして二人とも表彰台に上がる。

これは全日本ジュニアで鍵山選手が口にしていたことでもあり、まさに同じ目標を持った親友でありライバルでもあることを感じさせた。

いつも二人で一緒。飛行機の席まで隣同士。練習では笑顔でお互いにタッチ。

そんな微笑ましいほどの仲の良さは日本に明るさをもたらした。
彼らの仲のいい様子を見るだけで幸せになれる人はたくさんいたから。

優勝候補の期待を受けてプレッシャーを感じている様子などは見せず、

「狙い過ぎないように」と本人も口にする冷静さすら見せていた。


世界ジュニアSPは上々のノーミス演技で5位

そんな佐藤選手、SPでは大きなミスもなく、80点に迫る高得点で5位。

5位といっても、彼が優勝候補であることに変わりはなかった。

ジュニアのSPでは4回転が禁止されているため、持ち味を発揮できるのはFSだからだ。

そして、彼が惜しげもなく鍵山選手を応援する姿勢も話題になった。

「アクセルがんば!」

と声をかけている様子がニュースで放映されたが、これは鍵山選手がトリプルアクセルジャンプに苦手意識を持っているからだ。

親友ならではの応援の仕方だ。

その後、本人に「アクセルがんば!って言ったの聞こえた?」「あれ、俺のおかげでしょ?」とわざわざ言う様子も微笑ましく、仲の良さを感じさせた。

普段はクールな印象の彼が、無邪気さを見せた瞬間でもあった。


前半はジャンプに苦戦するも後半立て直す

迎えたフリーでは、モニター越しに見ていた鍵山選手にもわかるほどに緊張していた。

いつも試合前にパンダのティッシュケースの顔に触れていくのがルーティンだが、それを忘れるほど。

スピードのある滑り出しからの冒頭4回転ルッツは2回転に抜けてしまう。

これはまだ予想の範疇だったが、次の4回転トゥーループでも手をつき、なんと次の4回転で転倒してしまう。

身体を強く打ちつけ、すぐに起き上がれない様子で心配になった。

しかし、そこからが強かった。

その後のジャンプを全て成功させたのだ。
スピン、ステップも彼なりのベストを尽くした。

もがきながらの演技はむしろ、ロミオとジュリエットの世界観を表現してくれた。

演技後はがっくり膝をつき、うなだれる。
まるで絶望したロミオのようで、最後まで演じきった姿を讃えたいと思った。

キスアンドクライでは、涙を浮かべていた。
それでも全日本ジュニアのときのように突っ伏して泣き続けることはしなかった。

顔はしっかりと上げ、涙を浮かべながらも堪えていた。
隣のコーチが抱えていたティッシュを素早く取って涙を拭う姿に、泣く姿を見せまいとする意志を感じた。

結果はフリー6位で総合6位。
彼は涙を浮かべながら点数をしっかりと見つめていた。


「3枠は取りたかった」と笑顔に

涙目になりながらもしっかりとインタビューに答える佐藤駿選手。

悔しさと悲しさをあらわにした彼が一つだけ、喜んだことがあった。

…それでも来季の日本男子3枠が取れたことにふれると、「それはとても安心しています」と表情を緩めた。
「確実にそれだけは絶対とりたいと思っていた。後輩のために。優真のおかげというのもあるのですが、それだけはとれたというのは嬉しかったです」

引用元はナンバーウェブの記事

そう、佐藤駿選手がプレッシャーと戦ってきたのは後輩のためでもあった。

世界選手権では各国代表の人数割り当てが決まっている。
これは前年の世界選手権の結果で決まる。

世界ジュニアも同じで、3枠確保するには2名の順位合計が13以内である必要があった。

結果として鍵山選手が2位、佐藤選手が6位で3枠は無事獲得することができた。

彼は日頃から仲の良い2歳年下の三浦佳生選手らのことを思い、自分の悔しさを乗り越えて「嬉しい」と語れる。



メディアの報道には

「佐藤駿、ジュニア2冠は逃す」
「佐藤駿は6位、2冠逃す 大崩れ防ぐもぼうぜん」

はっきり言って酷いタイトルばかりだった。

そんな中で、長久保さんの言葉はメディア唯一の良心だった。

このとき、男子FS終了直後だった。
長久保さんは、メダルなど関係なく、大舞台でやりきった2人ともを讃えてくれた。

今大会では佐藤選手の仲間への思いやりの強さ、深さを感じる場面が何度もあった。

そのひたむきな姿勢と優しさが、きっと後輩にも伝わったはずだ。

もちろん共に戦った鍵山選手にも。

親友との”バチバチしない”ライバル関係はこれからも幸せを振りまいてくれるはずだ。


今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

次回は女子選手をご紹介します。

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