導く花 side ?? ~

   タイトル   「綺麗だ」

ずっと、見たかった。小さい頃から両親の影響で花が好きだった。父は、植物が好きでよく植物のことを話してくれた。一緒に図鑑を眺めながら聞く父の話が好きだった。母は花というより花言葉やその言い伝えが好きな人だ。母は、いつも寝る前に絵本は読んでくれなかった。その代わり、花の物語を話してくれた。時には、花の言い伝えではなく自作の物語を聞かせてくれた。それから、大人になっても、植物が好きで、一人でよく色々な植物園や花を見るために出かけるようになった。そんな時、父が教えてくれた。
「幻の一夜花。」
そう呼ばれる花があると。その花を一目見たくてこここを訪れた。甘く漂うバ二ラのような匂いが私の鼻をくすぐる。目の前で咲く薄ピンクの花はとても綺麗で、夜の目明かりに照りされ、とても幻想的だった。その花を眺めながら、遊歩道を一人歩いていた。そんな時だった。
その人を見つけた。一人立ち止まってただ花を見つめていた。ずっと見ているのも失礼だと思った。そう思う気持ちとは夏腹に、足が止まった。そして、目線も彼女に向かったままだ。肩まである真っ黒な髪。パンツ姿で、堂々とまっすぐ立っている人。別に珍しい事じゃない。それでも、なんとな
く彼女から目を離せなくなっていた。気づけば、彼女の元に足が向かっていた。私が彼女の元へ向かっている間も彼女が私に気づくことは無かった。そして、彼女の顔が見えそうな距離まで来た時、気づいた。月明かりに照らされた彼女の頬には、涙が伝っていた。その涙は、この花を見て感動したというよりはなにかを抑えていたものが溢れたようなそんな涙だった。その涙を拭ってあげたい。ふとハンカチの存在を思い出して、声をかけようと一歩踏み出した。その時、突然彼女は泣き止んだ。その目には、涙はなく、先程とはうって変わり、辛そうではあったものの、どこか晴れ晴れとした様子だった。
そして花を見て彼女はとても穏やかに笑った。胸がドクッと音を立てた。

               綺麗だ。


声を聞いてみたい。気づけば、彼女の隣に来て、思わず声をかけていた。
「綺麗な花ですね。」
彼女は、びくりと、肩を震わせた。
「⋯⋯っ。そうですね。」
そう答えると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いてしまった。その姿が可愛かった。思わず口に出しそうになった本音を抑える。たった数秒話しただけ。たった今会っただけなのに。もっと彼女と話したい。接点が欲しい。そう思ってしまう。その時、唐突に理解した。これが一目惚れだ。私は今
彼女に恋に落ちたのだと。でも、このままでは、彼女とはこれっきり。どうしようかと、頭の中でぐるぐる考えていた時、鞄の中の存在を思い出した。
「良かったら、これどうぞ。」
そういって、ハンカチを差し出す。彼女の目にもう涙は浮かんでいない。わかっている。でも、あえて渡した。彼女はそれを遠慮がちに受け取った。少しその顔は戸惑って見えたが、気にしない。これで、口実ができる。なにか別の話をしようと、彼女を見る。でも彼女の視線はすでに、花に向けられていた。その目がとても幸せそうで、声をかけるのをやめた。
そして、しばらく彼女のように花を眺めていた。どれくらいたった頃だろう。彼女が帰りそうな雰囲気を出した。その彼女に何か言おうとした瞬間、バチッと彼女視線が絡んだ。その時彼女が口を開いた。
「あの、ハンカチ⋯⋯」
「そのハンカチ、今度会う時に返してください。」
彼女の言葉を遮って、そういった。なんとなく、そうしなければならない気がした。
「わかりました。」
少し困った顔をして彼女は答える。 その流れから、そのまま私は連絡先を交換した。これで彼女に会える。彼女はもしかしたら、今返そうとしたかもしれないが、もうこの流れではできない。
「また会える日を楽しみにしています。」
「はい。ちゃんと返します。」
私がそういうと、彼女は律儀にぺこりと頭をさげて、その場を去った。去っていく彼女を見ながら考える。
「次会うときはあの笑顔を俺に向けてくれるといいな。」
そんなことを思いながら花を眺める。しばらく花を見たあと、俺も家へと帰った。

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