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第8回勉強会(2023.8.31)より

(先日開催した第8回勉強会のサマリーを書きました)
 
 
これまでの振り返り
 2つ前の第6回勉強会から、衛星写真が生物多様性のモニタリングにどのように力を発揮するかを扱ってきた。第6回勉強会では、スピーカーはオランダのサテリジェンスという衛星写真などのデータを加工する会社で、衛星写真をAIによって分析し、森林の中のどれがパームツリーか、いつどのあたりで収穫があったかなどの動きをモニターできるようデータ加工を行っている。顧客はパームオイルなどを原料とする企業で、サプライヤーのモニターにこのデータを使う。さらにこれらの企業に投資をする欧州を中心とした資産運用会社も、この情報を見ている。
 驚くことに、このようなデータサービスは今欧州ではメジャーになりつつある。第7回勉強会では、環境・サステナビリティのコンサルタントや関連NPO(コンサベーション・インターナショナル)で理事などを務める方から、自然資本への取り組みの現状を聞いた。今欧州では森林破壊ゼロ指令により、森林破壊の要因になっている6つのコモディティ(パームオイル、大豆、紙パルプ、カカオ、コーヒー、天然ゴム)を扱う企業は、サプライチェーンの中で森林破壊を起こしていないことを確認し報告しなければならなくなる。しかし現在できるのは、現地にいってサンプリングを取ったり、パーム農家にアンケートをとったりすることぐらいだ。衛星写真は密林の中の状況を明らかにでき、大きなインパクトがある。森林以外でも、今は漁業などで衛星データをAIで解析し、船の動きから人権侵害など違法行為が起きていないかモニターすることもあるそうだ。
 日本政府も取り組みをしている。経産省は世界最大解像度のハイパースペクトラム測定器HUSUIを運営しており土壌の状況などを見ることができる。しかし同時に国内では小型衛星で、安価に目的に適合した画像をより多くの頻度で撮影することが盛んに取り組まれている。日本企業でもここ半年ほど、衛星画像を使って、パーム農家をモニタリングするケースが見られるようになった。
 
音を用いたモニタリング
最初の講師は、前述のサテリジェンスのデータを用いたエンゲージメントを実際に行っている野村アセットマネジメントのロンドンのサステナブル投資のスペシャリストだ。彼らが衛星データを用いたのは、エビデンスベースのエンゲージメントをしたいと考えているからだ。実際にどうなっているかを見なければ、本当にリスクがあるかわからない。しかし衛星写真では、違法に森林を破壊していないかといったざっくりしたことはわかるが、森林の中で生物種に異変が起きていないかまではわからない。そこで3つの資産運用会社は共同して、森林で音を収録することでモニターできないかと考えた。この実験は5月にすでにプレスリリースされている

NAM LONDON

 彼らはパイロットとして、森林のなかで五箇所に録音機を設置し2週間後に回収した。そこで収録できた音声をAIを使って解析し、生物種の量(豊かな生物種が存在するか否か)と、特定の動物種のグループの存在を確認した。さらに分析を行うことで、単一栽培の地域と、保護区で明らかに生物多様性が異なることが特定できたと講演者は話した。この方式で特定できるのであれば、これまで現地でマニュアルで(おそらく動物を目視して?)評価していた時よりもはるかにコスト効果が高いということだ。人間が長時間滞在しないことによって野生の動植物へ与えるストレスも軽減できるという。次のステージとしては、AIの分析力をさらに高め、さらに多くのデータを集めたいと述べた。
 これについて多くの参加者はただ驚いていたが、昨年までESG評価データに関与していた一人が「大変面白い試みだが、音ということは、今後それを提出する時にすり替えられたりと、“ウオッシュ”の心配はないのだろうか」と聞いた。講演者は「まだまだ最初の段階だし、現地の農家と協働で調査を行なっているため、ウオッシュをするようなインセンティブはない」と返答した。
 
 地表の微弱信号を衛星で取得
 二人目の講演者は、ArkEdge Spaceという衛星システムに関するベンチャー企業だ。CEOはJICAのプロジェクトなどで経験を持ち、海洋や森林の状況を地上においた測定器で収録し、それを衛星につたえ収録するという技術を持っている。今まさに、生物多様性で最も求められているテクノロジーといえる。
 現在ルワンダやブラジルで、農場や船上、密林などに装置を置き、またこれらの装置が土壌から発電をして長期に設置できるという技術を併せ持ち、温度や湿度、Co2濃度についての情報を衛星にアップロードしている。これは、これまでこのような測定をする場合のコスト削減を成功させている。


ArkEdge Space

二人目の講師の発言が終わった後、この2つの講演を振り返り司会から質問した。
「音を直接衛星で拾うことはもちろんできないと思いますが、今一人目の講師が行なっている実験をさらに効率的に行うことはできると思いますか?」
 もちろん定期的に収録した音を圧縮したり、現地で分析を終えて衛星に届けることはできそうだ。一人目の講師の実験が今後も進んでいく中で、何か協力できることはないか、と司会からは続けて問いかけた。
 
衛星によるデータ収録は、今後も生物多様性や、さまざまな地表の問題解決に、大きな力を発するだろう。この議論はぜひ今後も続けていきたいと思う。
 

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