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第7回勉強会(2023.3.9)より

熱帯雨林の中で何がおきているのか?

(先日開催した第7回勉強会のサマリーを書きました)


これまでの振り返り

 第7回勉強会の直前には、さまざまな宇宙関連のニュースがあり、恒例の「前回の振り返り」を超えて、最近のニュースを投資家はどのように理解すべきか、といった話になった。

まず勉強会の直前にH3ロケットの打ち上げが失敗した。ファンドマネージャーの司会者は、投資家は6,7割成功すればよい、挑戦には失敗はつきものだと考えるが、マスコミが“失敗”と反応しすぎたのではないかと、木村教授に問いかけた。木村教授は一回目の打ち上げ停止は正しかったと思う。2回目は第2弾ロケットに着火せず、そのままにすると放物運動で落ちてしまうため、安全上決められた処置として破壊指令を送った、これは正しく作動したと説明した。そして今日本は、このサイズのロケットでは遅れをとっており、それだけ期待を背負ったものだった、これからどうするかが重要だと述べた。今回の失敗から何をくみ取り次につなげていくか、今は打ち上げ回数を増やし、経験を積む必要があると強調した。「失敗は神様のプレゼントだと思う。人間が、気が付かなかったところを教えてくれた」


バイオダイバーシティのモニター現状と課題

 最初の講師は、環境・サステナビリティのコンサルタントや関連NPO(コンサベーション・インターナショナル)で理事などを務める立場から、生物多様性のモニタリングの現状について話をした。

 コンサベーション(自然保護)で保護される対象は動植物だと思われがちだが、実は人間である、と講師は切り出した。最近は数千ヘクタール、数十万ヘクタールといった広い領域で、人々の活動がどう自然に影響を与えているのかを調べ、自然との関わりを改善していくという活動になってきている。これが温室効果ガス排出の問題となると、国全体、更には複数国で考えなければならず、そういう規模でコンサベーションを考えるようになってきた。更にその対応の質についても重視され、例えばカーボンを吸収すればいいというだけではなく、そこに住む人々や動物にどういう影響があるのか(風力発電とバードストライクのような)ということも考慮し、投資を選んでいくことが求められるようになった。ある種の生息域が、大きければ大きいほど絶滅のリスクが指数関数的に減る。森林を保護することによって、その森林が失われていたら吸収されなかった温暖化ガスの排出を阻止しよう、といった考え方が取り入れられていった。それは国レベルやボランティアのカーボン市場創設につながり、モニタリングの制度や手法にも影響するようになった。

 自然資本の劣化傾向が続いている中で、地球全体でみると人口が増え、自然への圧力は高まっている。自然を守りながらも生活を確保していくのかは難しい。企業活動が自然にどう影響しているのか、どう依存しているのかを把握したうえで、経営していかなければならない。そしてそれを投資家に開示していかなければならない。森林がどう減少しているか、どう劣化しているか、それをくい止めるための取り組みをしているか、それにはどのように効果があるか、地元のコミュニティへの影響はどうか、また絶滅危惧種の生息地、範囲を明確にし、人間の社会活動でそれらがどう変化するかを測定しなければならない。今そういった企業の活動を開示するフレームワークTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)という取組が行われている。この開示フレームワークの中で、一番重要な考え方はLEAPといい、先頭のLはどこに影響をあたるのかを把握することを求めている。自社が自然と関わっている、影響を与えているところはどこか、ということだ。欧州では森林破壊ゼロ指令が出ていて、森林破壊の要因になっている6つのコモディティ(パームオイル、大豆、紙パルプ、カカオ、コーヒー、天然ゴム)を扱う企業は、ここ2年ぐらいのうちに、サプライチェーンの中で森林破壊を起こしていないことを確認し報告しなければならなくなる。日本の企業でも、自分たちが提供しているプロダクトが森林を破壊して作られたものではないことを確認できないと欧州でビジネスができなくなるということだ。そこで漁業などでは、一部衛星データをAIで解析して船の動きをおいかけ、人権侵害など違法行為が起きていないかなどをモニターするようになった。

 日本の企業はまだまだ「うちは関係ない」と思いがちだ。たとえばカーシートを販売していればゴムが対象となるが、今はまだ日本の自動車産業ではそこまで把握できていないかもしれない。しかしGDPの観点からは半分以上が自然に依存して生み出される経済価値だと言われている。間接的なものも含めれば自然にビジネスが依存しない産業はないのであないか。そのような中で、パームオイルがどこで精製されたか、それが森林破壊リスクに関わるリスクが高いかどうかを確認するための色々な手法が探られている。どれだけに正確に、タイムリーに情報を取得できるかが重要となってきている。これらは広大な面積で見ていく必要があるので、衛星データなどを活用していかなければ対応できないだろう。


衛星から効率的に測定するには

 次は、木村教授から“衛星から写真を撮るとはどういうことか”について基礎から解説があり、これを理解することでデータ収集の可能性について改めて考える機会となった。

木村教授はまず、衛星写真の解像度と観測範囲の裏腹な関係について丁寧に説明を行った。観測方法についてもいくつかの種類があり、それによって衛星の種類も異なる。それに次いで重要なのは観測頻度だが、これには軌道を理解する必要がある。(森林の状況を、解像度を上げて観ようとすると)画素を細かく撮るには、軌道を低くすれば可能だ。ただし範囲が狭くなってしまう。もちろんレンズを大きくするという方法もあるが、その分測定器は重くなる。従ってどれくらい細かく、どれくらいの範囲をどれくらいの頻度で測定したいかということを考え、それにはどれくらいの重さのものをどれくらいの高さに飛ばせばよいかを決めていくことになる。リアルタイム性が必要であれば、それが最も高いのは静止軌道だ。気象衛星はそのために静止軌道に打ち上げられているが、距離が遠くなるため解像度は低くなる。また、衛星写真には受動的なものと能動的なものがあり、受動的なものは太陽の光をうけて撮影する光学衛星、能動的なものは自ら電波を発しそれを受け取るレーダー衛星だ。後者は夜間でも、雲があっても測定できる。しかし自ら電波を発信するため、大きなエネルギーが必要となる。つまり太陽電池をたくさん積み、発生した熱を捨てなければならない。衛星が小さくなればなるほど面積が小さくなるため廃熱が難しくなる。そうすると連続運用が難しくなるという点がジレンマだ。他にも前者は色を見ることができるが、後者は色の違いは判らず、形を測定することができるが、物性を調べることには向かない。前回の勉強会で解説をされたシンスペクティブは、このタイプの衛星を打ち上げている。逆に前者の光学衛星を沢山打ち上げているベンチャー企業もある。アクセルスペースなどだ。

 もう一つ、物性に関わる情報は反射光のスペクトラムによって解析することがある。ハイパースペクトラムカメラといって、ある一点における光の分光を収集することで対象物の物性を分析することができる。経産省は世界最大解像度のハイパースペクトラム測定器HUSUIを持っている。ところがこれは重すぎて、衛星に搭載することができず、今ISSに設置されている。センサーとして素晴らしく多くのデータを提供することができるが、ISSの軌道からしか計測できない制約がある。更に解像度も高く(つまりは測定範囲が狭く)、たまたま真下にこないと撮影できない。従って逆に衛星ベンチャーは一般的に、低軌道で小型の衛星をたくさん打ち上げ、互いにカバーすることを目指している。

 当研究室でも、比較的広い範囲を可視光線で撮り、ただ普通のカメラではなく赤外域まで取れるようフィルターを工夫したものを作成している。これで植生の状況を見ることができると考えている。もちろんバンドを調整すれば別のものも撮影でき、250kgぐらいでキューブサットでも打ち上げることができる。先ほどお話のあった、生物多様性、森林破壊のモニタリングに活用することができるのではないかと考えている。[千絵1]

 今後の議論としては“どこで計測するか”が重要だ。リアルタイム性を求めて細かいデータを取っていくのであれば、小型衛星をうまく活用してそこに搭載可能なセンサーを開発していくのがポイントだろう。また今後の勉強会の議論になると思うが、センサーを下に置いて、そのデータを衛星で集めるという技術もある。そういうやり方もある。議論のきっかけになれば幸いである。


今後求められること

 これから日本企業がEUの法令などによって、サプライヤーが集中するインドネシア上空のデータをもっと求めたとしても、2年以内に必要な情報は供給されるだろうか。EUなどの規制がなかったとしても、物理的なリスクは上昇しており、日本企業ももっと衛星写真などの情報を得たいと思うかもしれない。その時、衛星データの方は十分に提供されるだろうか。利用が増えるのが見込まれれば衛星の打ち上げも活発化するかもしれないが、卵が先か鶏が先か。日本ではなかなか大型の初期投資が行われないと言われてきた。木村教授は今後打ち上げ予定のコンステレーションで相乗りをして、データを収集していく方法もあるという。まずは必要なデータは何か、議論をさらに高める必要があるだろう。

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