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妹の話

年の離れた妹がいる。

私にネタがひとつもないから、妹の話をここに記す。


妹は学生時代にオーストラリアに留学をした経験がある。
ホストファミリー先にホームステイというかたちでおよそ二週間ほど、
たいした英会話力もなかった妹は、ほとんど『YES』か『NO』で乗り切ったと語っていた。
なんて迷惑な留学生だ。


何をしにオーストラリアに遠路はるばるやってきたかわからない異国の少女を、ホストファミリーは快く迎えてくれ、
たくさんの思い出を妹にプレゼントしてくれた。
観光地にも連れて行ってもらったらしく、
自然公園のようなところに赴いた際、
長寿の鳥がいたという。
はじめて目にする珍しい鳥に心を踊らせた妹。

しかし帰り際その鳥がこの世を去った。

とっっても長生きすることで有名だった鳥が、さっきまで元気だった鳥が天寿を全うした。

縁起が悪い。

この留学経験が妹の人生に与えたことは、
『命あるものはいつか必ず死ぬ』
という諸行無常の理だろう。
英語力はまったく身につかないままに。。



そんな妹は若くに結婚し、3人の子宝にも恵まれた。

あるとき子供を連れゲームセンターに出かけ、
見事UFOキャッチャーで景品を手にした。
その景品というのが電動でシャボン玉が出てくるというおもちゃ。

帰宅し操作するもうんともすんとも動かない。
シャボン玉が出てこずションボリする妹と子供たち。

外装箱に記載されていたお客様相談窓口に電話し、商品不良を訴えると、新しいものを送ってくれるという。

数週間後、届いたシャボン玉製造器を手に取り、意気揚々にスイッチを押すも、
またしてうんともすんとも動かない。

デ・ジャ・ヴュ・・

子供たちもガッカリしている。

勢いよく二度目のお客様相談窓口に電話。

するとなんと、機械的な音声が流れてきた。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


倒産?


結局、妹と子供たちはシャボン玉を見ることはできなかった。


この悲しいシャボン玉の経験が妹の人生に与えたことは、
『諸行無常』以下略。
シャボン玉を見ることって案外難しいのね。



シャボン玉倒産?話から数年が経った頃、
妹からまたも面白い話を聞かせてくれた。

妹の近所に住む母が豆腐おばさんに遭遇したという。
きっと世の中の99.9%のひとが知らない豆腐おばさんの話をしましょうね。


母がとあるコンビニに車を停めていたとき、
誰かが外からコンコンと運転席側の窓ガラスをノックをしてきた。

窓を開けると見ず知らずのおばさんが立っており、
怪訝な表情を浮かべる母に向かって、
「あの、100円を貸して頂けませんか。」
「豆腐を買うお金がなくて」

と支離滅裂なことをぬかした。

しかし母は100円をそのおばさんに渡した。

なんでだよ。

母いわく、気の毒だったからとのこと。

いやいや、豆腐一丁100円もしないからね?
そこそこ良い豆腐買おうとしてるあさましさ。腹立つ。

まぁ新手の物乞いに遭ったという話を母から聞いた妹。


そしたらそしたら、
諸行無常を座右の銘にしている(?)妹はやはり豆腐ババアに遭遇。
母とまったく同じ状況で。

遭遇を少し期待していたらしい妹はちょっと嬉しかったらしく、
「あの」と声をかけてきた豆腐ババアに、
「なんですかぁ?」と満面の笑みで応対。

するとババア、
「豆腐代を貸して頂けませんか。」
「130円」


まさかの金銭要求の値上げ。


これには妹もさすがに立腹し断ったという顛末。

おばさんよ、
豆腐代を値上げすんじゃねぇ。
豆腐のランクアップを図るんじゃねぇぞ。


私はその話を聞いて、
昔からある怪談や物の怪の伝承って、
こういう人間が由来なんじゃないかって思った。

この豆腐女だって、
少し脚色すれば小学生ならちびるくらいの怖い話にできるはずだ。

「豆腐代を渡さなければ豆腐にされる」
「木綿か絹ごしか、はたまたおからにされてしまう」
ってね。


「豆腐代を渡したひとはイソフラボンたっぷり入った豆乳をくれる」
という裏話も後に生まれる。




妹は今日もきっと元気です。





 




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