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家族の彼方 1

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駅まで迎えに来てくれた③弟は余りに母に似ていて一誰かわからない。家族の誰かという事はわかるのだが不思議な感覚だ。駐車場まで歩く彼の後ろを歩きながら徐々に心の中の周波数が調整される。年末にベルギーから飛行機で帰ってきていた③弟に間違いない。
 道すがらウチの状況について話してくれる。俺も今月のバイトで感じた事などをマルクス資本論的な解釈で話す。宅配便のバイトを長くやっても配送業の経営者にはなれない。牛丼屋のバイトは牛丼屋経営のスキルを身につける事はできない。永遠に。規定のおたまで規定の器に一定量を盛り付けるだけだ。「そうだね。そういう事になってしまうのは我々に資本が無いからだね」と弟。「この町では働いても月15万、でもそれでどうしろと?生活出来ないよ。携帯、家賃、暖房費と」。


弟は存外雪道でも上手くハンドルを操る。「この町では誰も金を持って無いんだよ。この通りに店を建てても誰も歩いてネェ(無い)」。そうして我々はドンキホーテに着いた。「そして我々はこうした外資にやられてる」と俺。
「ドンキって外資なの?」「いや、秋田外の資本と言う意味の外資」

 ドンキに誘ったのは弟だったがこちらも金がないので好都合だ。駅前の土産屋は何でもないクッキーに千円二千円とか取る。此処では四種類買っても千円もしない。親戚周りは今回しないと言うので自宅用だけ買って車に戻る。やはり手袋を持ってくるべきだった。母さんから聞いた事だが祖父様はシベリアに抑留されていた。帰ってきた時は精神を病んでいたと言う。そんな時を思い出す、そんな寒さ。俺の体はもう寒冷地仕様では無い。冷気は首から染みた。「運転上手いな」「スタッドレスだがら問題ね(無い)。そったスピード出さねばな」。一本道では車が一台走る時の雪轍ができるのですれ違いの時轍を逸れた軽自動車が道脇の緩い雪の中でスタックしてしまうことがままある。
「ベルギーだど余り雪降らねよな」と俺。
「んだな(そうだね)」
「オランダで凄い霧を見た事がある。海が熱いんだな」多分この話は前にしてる。
「食材買った方がいいか?」
「父さんが鰻を買ってだ(いた)」
道すがら立て替えられた橋の古い錆びついたフレームが見える。古びたものはいつの間にか新しく置き換えられていく。家が見えてきた。

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