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家族の彼方 4

幸いな事に食欲はあってよく食べる。しかし毎回箸を逆に持つので持ち直しさせないといけない。また、菓子に酷く執着していて放っておくと手が止まらない。以前はまめまめしく、帰省した俺の食事を見て、おかわりは要らぬか、お茶を飲むかと構ってくれたその姿がもう無いことは酷く悲しくて思えた。
話はできる。ただこちらが何か質問を投げかけても黙り込むことが時々ある。言いたいことが言葉に出来ないのか。あるいは言いたい事を頭の中で組み立てることができてないのかもしれなかった。
 この訪問の中でもう一つ取り組まないといけない問題がある。それは④弟の問題。10年以上引きこもっている48歳の弟。四兄弟の三人が家を出ているため、母が倒れた今となっては彼が頼りになるのは明らかなるも、側から見れば自立に向けてのらりくらりと対応してきたとも言われかねない家族にとり状況の打開はまた急務となる。
母が倒れた事で彼の中で何か動いたと思われるのは、朝キチンと起床して飯の用意をするようになった事だ。しかしながら長年の不摂生に於いて増量した体躯はここ一か月で改善というわけにもいかないのであろう。食後の茶菓子に手を伸ばすところを捉えて自己節制するよう軽く嗜めるタイミングで仕事は探しているのかと聞く。今それどころでは無い、母の飯を作らないといけないと言うので、それはそうであるが母さんが元気なうちに働けるようになる事が大事と思うと伝えると、やや怒気を含めて自分は精一杯やっており自分の将来も考えているのだ、それなのに自堕落だとか言わないで欲しいと言う。その剣幕に押されてその会話はそこまでとなった。この地を早々に立ち去り都会に出た兄たちが好き勝手してきた年月、その裏である意味「逃げ遅れた」弟、そう考えると不憫にも思えた。
夕食の鰻を6:30頃に食べ終えた後母は眠り、30分後にはいつも早寝の父も居間で寝る。そうすると三兄弟は各々の寝室に充てがわれた部屋に散った。居間は暖房と断熱が効いて暖かいが他の部屋は鬼のような寒さである。週二回のヘルパーさんがきて母を風呂に入れるタイミングで風呂を焚くので今日を逃すと次は4日後と言われ入った風呂もまた寒い。ボイラーが一時停止して死ぬかと思われたのは誇張では無い。家事全体取り仕切っていた母が12/1に倒れてからこの家のあらゆる箇所が朽ち始めた様に思えた。

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