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なぜ多くのユーザ企業は社内向けSaaSの細かい見た目をカスタマイズしようとするか

社内向けSaaSソリューションの導入を行っていると、よくユーザ企業の担当者からシステムの見た目、いわゆるlook and feelに関するカスタマイズの要望を頂きます。この画面でこの情報が見られるようにしてほしい、目立つようにテキストの色を変えたい、押し間違えるかもしれないからボタンの位置を変えたい、など。

クラウドソリューションベンダや導入ベンダ(以下「クラウド提供側」)からすると、そこに時間を使うならユーザの教育や業務の見直しに時間を使ったほうがいいですよ、と言いたくなりますが、これはどちらが正しい、ということではなく、そもそも「システムとはどうあるべきか」という根本的な部分に認識のズレがあるような気がしたので、考えをシェアします。なお、SaaSに限らずパッケージ一般のお話です。

結論としては、顧客向けシステムと同じユーザ至上主義の価値観で社内システム導入を行っていると細かい見た目のカスタマイズがしたくなる、のだと思います。

ユーザ企業視点: システムはエンドユーザ(顧客)のためのもの

ユーザ企業にとっての「システム」とは、Webサービスを提供する企業であればそのサービスそのもの、製造業であればECサイトなど、その企業にとっての顧客に価値を提供するためのシステムをイメージするようです。このシステムは顧客との重要な接点であり、同時にサービスや製品のブランドのイメージや価値を伝えるものでもあります。そして、数あるサービスや製品の中から自らのブランドを選んでもらうために、顧客の不快感を少しでも減らせるように、顧客がより多くの付加価値を感じるように、見た目をはじめとするUXには細部までこだわるでしょう。つまりシステムを常にユーザ至上主義で考えています

クラウド提供者視点: 社内向けのSaaSはエンドユーザ(社員)のためだけのものではない

一方で、社内向けSaaSシステムは、エンドユーザである社員のためだけのものではありません。例えば勤怠管理システムにおいて最も重要なことは何でしょう?それは、労務管理のために勤怠状況を正確に把握することです。私の会社では何時に業務をはじめ、いつ終わったか、いつ休憩したのかまで入力しなければなりません。UIもそこまで快適ではなく、正直面倒でしかありませんが、私はこのシステムを利用するのをやめることはありません。なぜなら勤怠状況を申告することは義務だからです

人事管理システムや財務管理システムも同様です。社内システムは、社内業務を効率的に、正確に行うことを目的にしており、エンドユーザ(顧客)に価値を提供しているわけではありません。むしろ管理職や役員、企業のために存在していると考えてもよいでしょう。

このように、社内システムはそれを使うことが義務であるため、見た目に関しては最低限ユーザが迷わず必要な情報が入力できるようになっていればそれ以上の付加価値を付ける必要はないのです。それよりも重要なのは、社内業務とその製品が前提とする業務がマッチしているか、ギャップがあるならどのように対応していくか、という部分です。

さらにクラウド提供者視点ではカスタマイズを行うとサポート対象外になってしまったり、バージョンアップ時にリグレッションテストが余計に必要になってしまうといったデメリットも頭に浮かんでしまうため、なおさら細かい見た目のカスタマイズには否定的になります。

認識を合わせてから導入する

こうしたシステムの性質の違いを意識しないまま、顧客向けシステムと同じユーザ至上主義の価値観で社内向けSaaSの導入を行っていると、エンドユーザである従業員のために、実は不要であるかもしれない細かい見た目のカスタマイズをしてしまうのです

とはいえ、私が関わってきたユーザ企業の中でもこの違いを理解しているところはあり、そうしたユーザ企業はむしろ積極的にシステムに業務やユーザに合わせる・慣れされるための教育に力を入れる(ユーザたちが新しいシステムを触り、覚えていくことを楽しいと感じてくれる場合さえある)ことができています。

ユーザ企業側はこの違いを理解する、クラウド提供側はこうした認識の違いに気づいた場合にはユーザ企業に理解してもらえるように努める、ことによって、SaaS・パッケージのうまみを最大限味わえるような導入になるのではないでしょうか。

補足
この前提を共有した上で、カスタマイズではなくコンフィグレーション(マウスぽちぽちの設定)の範囲でできる限り社員が使いやすいようなUXにしていこうとか、強制的に使わなければならないからこそ従業員満足を考えできるだけみんなが好ましいと感じるUXにするためにこの部分はどうしてもカスタマイズを入れたいとか、そういった議論をすることは問題ないと思っています。

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