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Fit and GapとFit to standard

ERPを始めとするパッケージ/SaaS製品を導入する際のアプローチ/手法である"Fit and Gap"と"Fit to standard"ですが、最近、社内で対立するものと考えている人と両立できると考えている人がいることがわかりました。これをきっかけに改めて各概念のおさらいをして、両立可能性を考えてみたので、シェアします。

Fit and Gap

Fit and Gap(Fit and Gap分析)は、現行業務をベースにして、製品標準のまま使える部分(Fit)とそのままでは使えない部分(Gap)を洗い出し、現行業務と製品との適合性を確認する分析手法です。

Fit to standard

Fit to standardは、パッケージ/SaaS導入の際に、現行業務ベースで考えるのではなく、製品ベースで考え、自分たちの業務を合わせるというパッケージ/SaaS導入時のアプローチ/考え方です。

多くのパッケージ/SaaSは、業界標準・世界標準の業務プロセス(ベストプラクティス)に従って作られているため、製品に合わせることで自社の業務を自動的にベストプラクティスに合わせることができます

また、製品標準に業務を合わせることで、一から開発したり、カスタマイズ・アドオン開発を行うのに比べ短い期間、コストで導入をすることができるというメリットがあります。

一方で、現行業務を変更することは、現場の反発を生むことが多いことや、(特に海外製のグローバルスタンダードになっている製品を採用するような場合)各業界の規格や監査、法令を遵守するためどうしても標準に合わせることが難しい業務が存在することから、難易度の高いアプローチ/考え方でもあります。

対立するか?両立できるか?

両立案① Fit and Gapをした上で、Fit to standardに基づきGap部分は製品標準に合わせる

両立できるという人は、Fit and Gapは分析手法であり、Fit to standardは導入時のアプローチ/考え方なので、Fit and Gapで見つかったGapをFit to standardの考え方で製品標準に合わせればうまくいくと考えるようです。

実際に、Fit and Gapについて、この前提で書かれている記事がいくつか見つかりました。

大塚商会のサイトでは下記ように書かれていました。

標準業務プロセスと業務プロセスが適合しないときは、標準業務プロセスの手順を変更し、標準業務プロセスに基づく新たな業務プロセスを定める。

次のサイトでも同様の記載があります

また、必要に応じてERPパッケージに合わせる形での業務プロセスを変更することも重要です。

多くの場合Fit and Gapを行うとGapはカスタマイズになる

しかし、実際の導入時には、Fit and Gapで見つかったGapを製品標準に合わせようとなることはまれです。なぜなら、そもそもFit and Gapを実施している時点で、"現行ベース"の考え方から出発しているため、「じゃあ現行を変えよう」となることは少なく、多くの場合Gapはカスタマイズや追加開発対象となります

この場合、Fit and Gap分析は製品との適合性を見るためではなく、導入時のカスタマイズにかかる費用や工期の見積もりのために使われる、ことになります。

こうした現実から、私の社内でも、Fit and GapがFit to standardと対立する概念であると考えている人がいたのだと思います。

両立案② Fit to standardで導入することを前提として、できるだけ現行業務との乖離が少ない製品をFit and Gapで探す

もう一つの両立案として、Fit to standardで導入をするが、その際の現場の反発や影響箇所を最小限にするため、製品選定段階で現行業務ベースでFit and Gapをしておき、できるだけGapが少ない製品を選ぶ、という方法も考えられるでしょう。

ただし、この場合は製品の評価 = Gapが少ない製品としてしまいそうになりますが、これでは前提にしていたはずのFit to standardとは真逆の考え方になってしまい矛盾するため、この案は採用できないでしょう。

個人的結論: トップダウンでFit to standardを徹底する前提であれば両立可能

これまでの議論を踏まえた個人的結論としては、トップダウンでFit to standardを徹底する前提であれば、両立可能です。

Fit and GapとFit to standardでは、立脚点が全く異なるため、甘い気持ちでの"いいとこどり"はうまくいきません。

Fit and Gap … 現行業務をを正として考える
Fit to standard … (これまで現場の人たちが改善を重ねてきた秘伝のタレの現行業務を否定するような)業界標準・世界標準の業務を正として考える

導入ベンダとして私が関わった多くのプロジェクトでは、Fit to standardを掲げつつも、現場の反発にあいなし崩しで多くのカスタマイズを加えてしまったり、Gapの少ない製品を選定しようとした結果個別事情に合わせたマイナーソリューションを選び、システム導入の本来の目的であった業務改革や業務の高度化、部門横断での情報共有といった目的が忘れ去られた製品が選ばれる、というケースが多かったです。

もしFit to standardとFit and Gapを併用する場合は、現場の反発を前提として、トップダウンでFit to standardの号令をかけた上で、どのくらい自社業務を改革する必要があるか、それはどのくらい大変なことなのかを分析する道具としてFit and Gapを使う、とするのがよいと思います。

いいとこどりをしたい人に向けて…

それでもどうしても現場の意見も聞きつつ、両立案①のような進め方をしたい場合は、標準に寄せる場合と、寄せない場合の基準を明確に決めておくとよいでしょう。この場合のヒントは別記事にまとめました。

以上です。

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