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After東京五輪~これから新体操はどこに向かうのか? <12>

「空白の1年」でも進化を続けた新体操選手たち

 輝きと興奮に満ちた年になるはずだった2020年は、新型コロナの脅威の前に多くのものが失われた「空白の1年」になった。新体操の世界では、春の高校選抜に始まり、インターハイ、全日本ジュニアなどが中止になり、全日本インカレ、ユースチャンピオンシップは延期のうえ辛うじて開催された。全日本選手権も当初予定より1か月遅れではあったがなんとか開催にこぎつけ、この時点ではまだ東京五輪への出場は決定していなかった喜田純鈴(エンジェルRGカガワ日中/国士舘大学)が3連覇を達成した。
 団体総合では日本女子体育大学が優勝、武庫川女子大学が準優勝。この年の春先には緊急事態宣言で学校に行くこともできなかった選手たちが多く、インターハイも中止になっていたため、高校生は2019年度の実績に準じて出場チームが選抜されての全日本選手権だった。例年に比べれば練習を積めていないチームも多かったはずだが、それでも本番の演技はそんなブランクを感じさせないものが多かった。D得点も、もっとも高かった日女の「ボール×5」は22.100、高校生でも金蘭会高校の21.200(ボール×5)など、前年から着実に点数を積み上げてきていた。
 コロナ禍でも、できることをやり続け、諦めることなく積み重ねてきたからこその演技を見ることができた2020年だったが、開催された大会でもほとんどが無観客開催。観客の声援や拍手のない中で演技をしなければならなかった選手たちも気の毒だった。
 ただ一方で「やむを得ず」のスタートだったとは思うが、大会のライブ配信が増えたり、オンラインでの大会開催、レッスンなど居住地を選ばず、観戦や参加、受講ができる方法が増えたことは、この先の新体操にとっては大きな財産になったように思う。

東京五輪⇒世界選手権の2021年の終わりに見えた次世代の台頭

 1年遅れの五輪が開催された2021年。
 東京五輪での日本の新体操は、期待されていた結果には届かなかった。
 新型コロナによる開催延期というまさかの不運もあり、こういう結果になったことで誰を責めることもできないと思う。ただ、最後の最後にこうなってしまったこと(結果ではなくプロセスが)の要因は、しっかり検証し変えるべきことは変えていく必要はあるだろう。
 2021年は五輪だけでなく10月には北九州市で世界選手権も開催され、そこでは喜田純鈴が個人総合8位、大岩千未来(イオン/国士舘大学)が個人総合13位、フェアリージャパンも団体総合4位、種目別決勝では2種目とも銅メダル獲得という結果を残した。いわば「五輪のリベンジ」とも言える世界選手権だったが、このときのフェアリージャパンは五輪とはメンバーが変わっていた。翌年以降を見据えての変更だったのだろうが、新しく入ったメンバーも世界選手権では十分に役割を果たしていた。こういった新陳代謝をもっと早くからできなかったのだろうか、という気持ちにもなったが、それは結果論に過ぎない。 次世代のフェアリージャパンにも期待してよいのではないかと思うことができたのは、この世界選手権での大きな収穫だった。それは個人総合で出場していた喜田や大岩も同様で2人とも五輪以上の演技を見せ、結果も出すことができた。東京五輪は終わったが、日本の新体操はもうしばらくこの2人が引っ張っていってくれるのではないかと思うことができた。

「東京五輪に向けたターム」の終わり~皆川夏穂、現役引退

 そして、この世界選手権は、長く日本の第一人者だった皆川夏穂(イオン)の引退試合でもあった。皆川は1種目のみの出場だったが、最終日のガーラにも登場。持ち前ののびやかさ、柔らかさを存分に発揮した美しい演技を披露した。「日本での試合はいつも以上に緊張する」と言っていた皆川は、ここ一番でのミスが出てしまうことがあり、そのためたくさんの悔しい思いをしてきた選手だ。9年間も日本の代表でいられたという競技生活は「恵まれている」とも言えるが、そのプレッシャーの大きさを想像すると、そら恐ろしくもなる。よくぞここまで。皆川の最後の演技はそんな思いで見守った。
 最後の演技を気持ちよく終えるためには、徒手演技にする手もあったと思う。優雅で美しい皆川の新体操ならば、それでも十分観客の心には響いたはずだ。しかし、皆川はこのとき果敢に手具を使って演技をした。それも「手具をもって踊る」だけではなく、投げや技なども入れ、そしてミスなく演じ切った。「日本での試合は緊張する」と言っていたのはこういうことだったのか、と最後の最後にわかった気がした。「ミスできない試合だ」という思いが、どんなに皆川の体や動きを縛っていたか。そこから解放された皆川は、こんなにも堂々と、手具と戯れるように余裕をもって演技できる選手だったのだ。
 2007年の全日本選手権で見た村田由香里の引退エキシビションもそうだった。どんなに長く見てきた選手でも、最後の最後に、競技から解放される瞬間に見せてくれるものがある。それが新体操なんだ。

「2018年ルールの終焉」~2021全日本選手権

 世界選手権の1か月後に行われた全日本選手権に、喜田は出場せず、山田愛乃(イオン/国士舘大学)が初優勝を飾った。パリ五輪が開催される2024年に大学4年生の山田は、年齢的にはまさに「パリ五輪の星」と、メディアは沸き立った。この年の2位は松坂玲奈(東京女子体育大学/ヴェニエラRG)、3位は鈴木菜巴(須磨ノ浦高校/アリシエ兵庫)と「DAの申し子」のような選手たちが躍進。2018年以降、D得点を吊り上げ続けてきたこのルールでの最後の全日本選手権にふさわしい結果だった。 <続く>

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。