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After東京五輪~これから新体操はどこに向かうのか? <9>

リオ五輪直前に垣間見えたフェアリージャパンの「ロシア化」

 2016年、リオ五輪の年。
 フェアリージャパンのメンバーには、2015年から横田葵子、鈴木歩佳、竹中七海らが加わっていたが、リオ五輪メンバーは、ロンドン五輪後もメンバーに残留していた畠山愛理、松原梨恵、2013年から加入していた杉本早裕吏、熨斗谷さくら、そこに横田が加わった。国井麻緒と竹中は補欠登録となった。
 リオ五輪前には、フェアリージャパンの公開練習が何回かメディアを入れて行われたが、本番前最後の国内での公開練習の際、国井は脚の故障から復帰したばかりだった。竹中と入れ替えながら試技も行われ、本番ではどんなメンバーになるかわからない状況だった。そのときも、「メンバーは最終的にはどうなるのか?」と食らいつくメディアの記者に対して、山﨑浩子強化本部長は、「実際に出るメンバーを決めるのはロシアのコーチなので私にもわかりません」と答え、新体操に不慣れな記者はなんとも怪訝な顔をしていた。
 いわく「日本のチーム、それも五輪に出るチームなのに、メンバーを決める権限がロシアのコーチにあるのっておかしくないか?」そんな声も聞こえてきた。
 このとき、畠山愛理もインタビューに答えていたが、直前になってもメンバーが決まらないことに対して不安はないかと尋ねられ、「大丈夫です。ロンドン五輪のときも現地入りしてから曲が変わったりしたこともありますから」とにこやかに答え、場を和ませていた。ロンドン五輪のときも、そんな土壇場でロシアのコーチの判断で曲が変更になった(元に戻された)ということも、ほとんどのメディアは知っていたはずもなく、このとき改めて「日本の代表ではあるが日本には主導権がない」というフェアリージャパンの現状を知ったメディアが多かったのではないかと思う。
 それでも、そこまでロシアの指導を尊重してきた成果は着実に出ていて、2016年の国際大会でのフェアリージャパンの成績は、アジア新体操選手権での優勝をはじめ五輪本番に向けて期待が高まるものだった。

4年後の東京五輪に向けて、明るい兆しは見えたリオ五輪

 そして迎えたリオ五輪本番。予選でのフェアリージャパンの演技は素晴らしかった。とくに「フープ&クラブ」では4位、「リボン×5」は6位ながらも、ラストの大技・リボン4本投げを決め、観客を沸かせた。予選順位5位で決勝に進んだが、決勝では「リボン×5」でミスが出て総合8位と予選よりも順位を落としてしまった。このとき、5位だったベラルーシとの2種目合計の得点差はわずか1点。上位チームとの差はそれほど大きなものではないと思えたリオ五輪だったが、それでも8位。それが現実だった。
 アテネ五輪以来3大会ぶりの五輪出場となった個人競技には、早川さくら(イオン)との代表争いを制し、皆川夏穂(イオン)が出場した。2016年に入ってからのワールドカップでも試合によっては早川のほうが上にくることもあり、ギリギリまえ競い合っての代表決定だった。五輪での皆川は、予選16位で上位10選手による決勝には進出できなかったが、当時の皆川は、ワールドカップでもほぼそのあたりの順位だったため「持てる力は出し切れていた」リオ五輪だったように思う。なんと言っても、2004年のアテネ五輪以来、個人競技での12年ぶりの五輪出場は、2020年に東京五輪を控えた日本にとって、間違いなく大きな一歩だった。

2020年を見据え、多くの選手たちが国際大会を経験

 4年後に迫った東京五輪に向けてか、2016年は特別強化選手以外にも国際大会出場の機会が巡ってきた年だった。2016年の強化選手に選ばれていた河崎羽珠愛(イオン)、猪又涼子(日本女子体育大学)、古井里奈(国士舘大学)、立澤孝菜(イオン)らはワールドカップやアジア新体操選手権に出場。日本には皆川、早川以外にもタレントがいるということを示した。
 この年の4月に行われたアジアジュニア選手権には喜田純鈴(エンジェルRGカガワ日中)、大岩千未来(イオン)、山田愛乃(イオン)が出場し、国別対抗3位になっており、4年後に向けて強化が進んでいることを印象づけた。
 2016年の全日本選手権では、河崎が3連覇を達成。2位にはまだ高校1年生だった柴山瑠莉子(イオン)が入り、立澤が3位。日本のトップクラブであるイオンが初めて全日本の表彰台を独占した。

東京五輪に向けて最高のスタートを切った2017年 

 東京五輪に向けての最終タームの始まりとなった2017年。この年のフェアリージャパンは、リオのメンバーから畠山愛理が抜け、新メンバーを加え10名でスタートしたが、杉本、松原、熨斗谷、横田、竹中、国井というリオメンバーに、新エースとなった鈴木歩佳(大垣共立銀行OKB体操クラブ)を加えたメンバーでほぼ固定されていた。そして、このメンバーで、8月にイタリアで行われた世界選手権で団体総合3位、種目別決勝「ボール&ロープ」では2位、「フープ×5」では3位と3つのメダルを獲得する。日本にとっては42年ぶりとなる世界選手権のメダルは、東京五輪に向けた4年間の幸先のよいスタートとなった。
 また、この世界選手権には個人で皆川と、喜田純鈴が初めて出場している。2人揃って決勝進出し、皆川は個人総合5位入賞、種目別フープで銅メダル獲得。2017年は、日本にとって過去最高の結果を得られた年となり、東京五輪への期待は高まっていった。
 2017年の全日本選手権では、立澤が初優勝、柴山が2位、河崎が3位と国際大会も経験してきた選手たちがひと皮むけた演技を見せ、非常にハイレベルだった。そして、2年連続でイオン勢が表彰台を独占。全日本ジュニアでも2016~2017年には、イオンの選手たちが個人では表彰台を独占、団体でも連覇しており、イオンの最盛期を印象づけた。 <続く>

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