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2024年9月に読んだ本

 9月は遅めの夏休みを取り、二泊三日で旅行へ。暑すぎたのでホテルの部屋で昼寝したりひたすら本を読みました。


1.「この世の喜びよ」/著:井戸川射子

第168回芥川賞受賞!

思い出すことは、世界に出会い直すこと。
静かな感動を呼ぶ傑作小説集。

娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。

ほかに、ハウスメーカーの建売住宅にひとり体験宿泊する主婦を描く「マイホーム」、父子連れのキャンプに叔父と参加した少年が主人公の「キャンプ」を収録。

最初の小説集『ここはとても速い川』が、キノベス!2022年10位、野間文芸新人賞受賞。注目の新鋭がはなつ、待望の第二小説集。

二人の目にはきっと、あなたの知らない景色が広がっている。あなたは頷いた。こうして分からなかった言葉があっても、聞き返さないようになっていく。(表題作「この世の喜びよ」より)

出版社HPより引用

 二人称の文体が独特で面白い。その文体のせいか、「あなた」である穂賀さんのことは描写があるけど、フードコートで出会う少女やゲームセンター勤務の多田さんのことは、作中ではあまりよく分からないんですよね。そういう非対称的な視点によって、全体的に不穏な空気を感じた。
 井戸川さん作品をほかにも読んでみようと思い、既刊本を何冊か購入したので、近いうちにまた読みたい。

2.「若き見知らぬ者たち」/著:島口大樹

芥川賞候補「オン・ザ・プラネット」の著者が描き切る、鮮烈な人間ドラマ。

静かな怒りを、彩人は感じていた。
亡き父の借金。難病の母の介護。
先が見えない日々の中、昼も夜も働き続ける。
幾重もの困難に遭いながらも、弟や恋人、友人らの支えで、なんとか生活を送っていた。
だが、ある夜、思いもよらぬ暴力が降りかかる――。
目を背けたくなる痛みに対峙する、鮮烈な一作。〈文庫書下ろし〉

出版社HPより引用

 これまでの三作(特に「鳥がぼくらは祈り、」)で完全に島口大樹ファンになったので、新作も早速購入・読了。
 今作も文章表現は相変わらずのすごさで、それを見るだけでも十分に楽しめる。本作は映画のノベライズのためか、ストーリー展開が映画的で、小説にしては少し展開が遅め。
 本作のような救いのない(少ない)映画作品が自分は好きなのかもしれない。

3.「わたしを空腹にしないほうがいい」/著:くどうれいん

〈俳句をタイトルにしたエッセイ集〉
これは現代版『ことばの食卓』否『手塩にかけたわたしの料理』か?いいえ、彼女は"くどうれいん"。
モリオカが生んだアンファン・テリブルが書き散らしたことばと食物の記録。
はじまりはこうだ。
"わたしを空腹にしないほうがいい。もういい大人なのにお腹がすくとあからさまにむっとして怒り出したり、突然悲しくなってめそめそしたりしてしまう。昼食に訪れたお店が混んでいると友人が『まずい。鬼が来るぞ』とわたしの顔色を窺ってはらはらしているので、鬼じゃない!と叱る。ほら、もうこうしてすでに怒っている。さらに、お腹がすくとわたしのお腹は強い雷のように鳴ってしまう。しかもときどきは人の言葉のような音で。この間は『東急ハンズ』って言ったんですよ、ほんとうです、信じて”

2016年6月の初夏、そして一年後の2017年6月の心象風景。くどうれいんが綴る、食べることと生きることの記録。

出版社HPより引用

 エッセイだけど日記のように日付入り。食べ物に対する文章の解像度が高く、エッセイに出てくる食べ物全部おいしそう。

4.「我が友、スミス」/著:石田夏穂

 面白いのは間違いないが、ボディビル界隈の世界観や大会出場までの道程の説明にウェイトが多く割かれている印象で(マイナーな世界なのでしょうがないが)、ボディビル出場手引きみたいになってしまっていて物語に上手く入り込めなかった。

5.「##NAME##」/著:児玉雨子

光に照らされ君といたあの時間を、ひとは”闇”と呼ぶ――。かつてジュニアアイドルの活動をしていた雪那。少年漫画の夢小説にハマり、名前を空欄のまま読んでいる。第169回芥川賞候補作

出版社HPより引用

 なかなか感想を語るのが難しいのだけど、主人公雪那は、ジュニアアイドル時代に「被害」に遭っていた自覚はなく(不勉強だが、そもそも被害といえるのか?)、むしろ仲間たちとの楽しい思い出の部分もあったと思うのですよね(あらすじからしてもそうだし。)。そうすると、本作の一番表層の感想として、そうした「ギョーカイ」の悪慣習のひどさはありつつも、その中にあった当事者たちの努力とか楽しい思い出も全部ひどい出来事だったと判断されたり、なかったことにされたりするのは、それはそれで違うのではというところまで描かれていると思っています(とはいえ、著者インタビューをいくつか見たけど、そこまで掘り下げられているものは見つからなかった)。そういう(いい意味で)どっちつかずというか、白黒つけられない感情とか出来事を取り上げられるのが小説の良さだなと思います。

6.「ケチる貴方」/著:石田夏穂

「冷え性」と「脂肪吸引」。いま文学界が最も注目する才能が放つ身体性に根差した問題作!

主人公の不機嫌さは極端な冷え性ゆえで、よく読むと類型的な「不満持ち」ではない。気まぐれな「親切」が身体に激変をもたらす一夜を経て、劇的な面白さをもたらした。(「ケチる貴方」野間文芸新人賞選評より)――長嶋有

私は寒いとき必死だ。こんなにも必死なのに、何故この身体は頑なに熱を生産しないのだろう。
骨と皮ならまだしもお前はエネルギーの塊じゃないか。私の代謝機能よ。この身体を温める薪ならここに山のようにあるよ。
頼むからケチらず使ってくれないか。(「ケチる貴方」より)

第44回野間文芸新人賞候補となった表題作と
第38回大阪女性文芸賞受賞作を豪華同時収録。

私の脚は、生来、人並外れて太かった。その程度を定量的に示そう。その周囲、五十八センチ。
(中略)私は自分より脚の太い人を、ついぞ目にしたことがなかった。(「その周囲、五十八センチ」より)

自己肯定と自己否定の相矛盾する狭間の中で生きる人の心を描いて大成功している。
(「その周囲、五十八センチ」大阪女性文芸賞選評より)――町田康

出版社HPより引用

 「我が友、スミス」に続いて石田夏穂作品。
 人に親切にすると体温が上がるという設定は面白い気がするけど、ソフトなSF感のある物語。

7.「新しい恋愛」/著:高瀬隼子

みんなの恋愛をわたしは知らない。

芥川賞受賞のベストセラー『おいしいごはんが食べられますように』著者が放つ、最高の〈恋愛〉小説集。

あなたはどこまで共感できますか?
ひと筋縄ではいかない5つの「恋」のかたち。

出版社HPより引用

 高瀬隼子作品で恋愛ってどんな感じかなと思っていたけど、どの作品も燃え上がるような恋愛ではなく、むしろそれどころか、恋愛感情自体の気持ち悪さや居心地の悪さを捉えたような作品群。そういう悪感情を抽出するうまさが高瀬隼子作品の好きなところだと再確認した。

8.「ブラックボックス」/著:砂川文次

第166回芥川賞受賞作。

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。

自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。

昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)

気鋭の実力派作家、新境地の傑作。

出版社HPより引用

 本作以外の候補作はこれまでに全部読んでいたので、第166回芥川賞受賞作と候補作を全部読み終えた。個人的には九段理江「Schoolgirl」が一番好きかな。

9.「くっすん大黒」/著:町田康

三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行った。
誰もいない部屋に転がる不愉快きわまりない金属の大黒、今日こそ捨ててこます――日本にパンクを実在させた町田康が文学の新世紀を切り拓き、作家としても熱狂的な支持を得たデビュー作!

出版社HPより引用

 相変わらず町田康作品は唯一無二で面白すぎた。

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