とある領土の人々とドラゴンにまつわるお話                       ~if version~   第18章

エントランスでの食事の後、プツリと糸が切れた様にオラコ姫が眠りについたので、昨夜の女性兵士が姫を抱えて寝室へと連れて行った
女性兵士と言えど流石に訓練を積んでいるので、オラコ姫をヒョイとお姫様抱っこをし、階段すらものともせずに上がっていく
その後、勝手に持ち出した椅子やテーブルを片付けていると、ドズル王からそのまま執務室に居る様に言われメンとオンリーは従う

執務室に入るや否やメンは何かに気付き、壁や窓硝子を拳でコツコツ叩いて周り、ニヤリと笑ってオンリーに言う
「こりゃあ随分と堅固な造りにしてんなぁ。この硝子、そんじゅそこらのチャチな大砲なんかじゃあ壊れねぇぞ?」
「…防弾ってやつか。壁も確りしてそうだし、音に響きが無い。防音設備も入ってそうだな」
「じゃなきゃあここで態々内緒話はしねぇわな」

やがてパウリー、ドズル王、少し遅れて眠そうなオラフ王子が揃い、各々が椅子に座るとドズル王か切り出す
「…さて、何処から話そうか」
そう言って、祖先がドラゴンを討伐してここに街を築いた事から話始めたドズル王を、オンリーが直ぐに制止する
「…正直に言うと、既に察しがついているので何一つ包み隠さず話して頂きたい。それに…魔術師と2度も対峙して、姫を守った者にまで嘘を吐き続ける理由は何ですか?」
これにはドズル王もパウリーも流石に驚く
オラフ王子はまだ全貌を知らないのか、何の事か解っていない顔をしている
パウリーが恐る恐るオンリーに聞く
「察しがついてる…と言うのであれば、オンリーさんの話を先に聞いても宜しいでしょうか?」
「…では。恐らくドラゴンを討伐した話から嘘でしょう。街の年配の方達から『ドラゴン封印』の話が聞こえる時がありました。それと…この国の魔術師はオラコ姫とネコおじいちゃんだけでは無いと思われるのですが?」
言うと直ぐに下を向いてしまったオラフ王子
ドズル王とパウリーは顔を見合せる
ドズル王は頷き、パウリーが話し始める…

ドラゴンを討伐した…と言われてるドズル王の先祖でもある勇者『ドゥズリー』はドラゴンと対話出来る能力を持っていた
その能力でドラゴンと心を通わせ、故郷に帰れなくなっていたドラゴンを故郷に帰す準備を共に進めていき、出会って数年後に成功を果たした
ドラゴンが居なくなり、ドラゴン討伐依頼を出していた国から莫大な報酬を貰ったドゥズリーだったが、時々波長が合った時に聞こえてくるドラゴンの声が気になり、この島に家を造って住み始める事にする
やがて旅人や、冒険者や、国を追われた人達等が、ドラゴン討伐の噂を聞いてこの島にやってきては出ていったり、住みついたりを繰り返し、少しず街になっていくーー
時々聞こえる声と会話していくと、どうやら異世界に行ったドラゴンはここの土地との繋がりは切れなかった様で、こちら側の声が聞こえる環境に居る事が判り、ドゥズリーはドラゴンが寂しくない様に人が住み易い街にする為、道や港等の整備を進めて行き、街が大きくなってきたら年に1度盛大なお祭りを提案し、今現在にまで至るーー

メンはサウナでのドズル王の言葉を思い出す
ーー「ボクは…『皆』に楽しんで欲しいのさ」
皆とは、この国の人達も、旅人も、ドラゴンも入っていたのか

後を引き継ぐ様に今度はドズル王が話し始める…
この国を訪れる人の中には、魔法国家から命からがら逃げるようにして訪れる魔力持ちも少なくはなかった
孤島…とゆう事もあって、逃げ場所としては選ばれやすかった事もあったのかな
その人達は残った僅かな魔力で国を覆う程の魔力抑制を施して自らと、これから来るかもしれない魔力持ちを隠そうと尽力していった…
それが長年続くと、追われる魔力持ちの間で都市伝説じみた話になってたみたい
この国の妃『ミルピエ』もその一人だった…
ボクとミルピエが結婚して、ミルピエがオラフとオラコを産むと、卓越した魔力を持って産まれたオラコの存在に不安を感じ、生後半年も経たない双子をドズルに託して、ミルピエは今も船で世界中を巡って魔力の制御方法を探し回っている
つまりこの国にはミルピエ、オラコ、オラフ、ネコおじ4人の他に、魔力は弱くても街の人達の中にも魔術師が居る事になる…
ドズルは魔力は持たないものの、先祖と同じくモンスターと会話出来る能力があり、それはオラフにも少し受け継がれていると言う

全て嘘偽りなく話し終えたドズル王は、少し泣きそうな顔でメンと向き合う
「前にサウナで聞かれたよね?『腕が立つ旅人に恩を売って、仲間内に入れて、何を恐れてるのか?何を守ろうとしてるのか?』って…。オラコの魔力は魔法国家にとって垂涎ものだ。拐われたりしない様にずっと隠している。…でも何時までも隠し通せるとは思っていないし、何時までもこの国にしか居られない状況にもしたくない。その為に今もミルピエが頑張って魔力を抑制出来る方法を探してくれている。…でも今回、魔術師が来た。この国の魔力抑制を物ともせず、気配を断ち、空間移動が出来る程の手練れの魔術師が。…下心があってメンとオンリーにはこちらから接触して、先に恩を売った事は事実です、ごめんなさい。オンリーには2度もオラコを助けて貰ったのに、隠し続けるつもりでいた。…でも、でもボクは本当に…オラコの存在がこの国以外に知れ渡ってしまう事が…本当に…恐ろしい…」
そうドズル王は言いながら身震いをする…
本当に考えただけでも身が竦む思いなのだろう

「…ここ迄助けてくれるとは思ってもみなかった。本当にありがとう」
ドズル王は椅子から立ち上がり、2人に深々とお辞儀をする
パウリーとオラフもそれに倣う
…が、オラフは少し戸惑いを見せていた
「…父上。オラコの魔力はそんなに凄いのですか?」
魔法国家から狙われる程…そう聞いても周りにこれだけ魔術師が居る環境であるからこそ、実感が無いのであろう
かと言って魔法国家と呼ばれている国の中で行われている非人道的な行いを、態々王子に伝え知らせる事も憚られる…
オラコ姫が魔法国家に拐われでもしたら、魔力が枯れ果てるまで人の所業とは思えない程の精神的肉体的苦痛を与えられながら無理矢理魔力を放出させられ、魔力が枯れ果てても尚、死ぬまで人体実験にされるであろう…
オンリーもメンも、旅の途中で見た魔法国家と呼ばれる国での非道を知っているからこそ、形振り構わず抵抗した

…オラコ姫にはフワリと笑っていて欲しいーー


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