とある領土の人々とドラゴンにまつわるお話                       ~if version~   第19章

ーー時間は少し遡り、異空間にて

「…ふむ。お嬢さんは随分と指向性が強い魔力探知をしますね。思考まで読み取られそうですよ」
城の食堂でオンリー様やメン男爵と食事をしていたのに、気が付くと不思議な空間に例の魔術師と2人きりだった…
(ここは…?)
「ここは異空間…とでも考えて下さい。お嬢さんと、お嬢さんの『血』の記憶を遡って少し調べ物がしたいだけですので、良い子にして下さい」
オラコは混乱した
(…声を出してないのに…)
「ふん。声なぞ出さなくても聞こえてきますよ。…まぁ少しだけ黙っていてくれたら直ぐに終わります。黙れないのであれば強制的に黙らせます」
するとオラコ姫は観念したかの様に膝をつき、手を組み、祈りを捧げる様に目を閉じる
魔術師がオラコの頭の近くに手を翳すーー
「…?」
(…思考が読み取れない)
それに、先程まで駄々漏れだったオラコの思考が一切聞こえなくなっていた
(…閉じた…のか?自分の意思で)
出来るのか?こんな子供が?
でも読み取れなくなってるのは事実…
少し魔力を強めて読み取ろうとする
「…っ」
一瞬だがオラコ姫の顔が歪んだ
これでも読み取れない事はないが面倒だ
それに…この一瞬でも読み取れた事はある
子供の駄々に付き合う義理は無い

「…思考のシャットダウンですか、面倒な事を。解りました、お嬢さんの思考を読むのは面倒なのでお帰り願いましょう。……お嬢さんと同じ『血』を持つ人間はもう1人居る事ですし…」
「止めて!」
予想通りの展開に魔術師はニヤリと笑う
何とも家族思いのお嬢さんだ
「良い子ですね。お兄さんを身代わりにしたくなければ、そのまま何も考えずに居て下さい。直ぐに終わりますよ」
そう言ってもう一度頭に手を翳して目を閉じる
…多少オラコ姫の謝罪と助けを求める声が聞こえてはきますが、雑音の範囲内だ

さて…
まぁざっと1000年前位でしたか…
おっ、エンダードラゴン…早速居ましたね
…渾名?『エンドラ』?
…この人間、おかしな事を…
しかもこの人間、何故エンダードラゴンと対話が出来ているのでしょうか?
もしやこの人間が『勇者』…?
…異空間へ飛ばす?
元のエンドの世界に戻れなくても良い…と?
現世だと何処に居ても必ず人間がやってくる…と?
ふむ…色々と試してますね
…まぁネザーは暑くてお嫌いですよね
岩盤上でもそれは同じ事だと言うのに…
さて、最早打つ手が無くなりましたか?
……………何故っ!?
エンドポータルフレーム!?
馬鹿な…どうやって手に入れた!?
…いや、この際手段は関係無い
成る程、何処にエンダードラゴンを隠したのか解りました
もうお嬢さんの『血』の情報は充分でしょう
次は、今現在の事を教えて貰いましょうか

魔術師は目を開け、一度オラコの頭から手を外す
目を開けるとオラコ姫が魔術師をジッと見ていたが、魔術師は気にせず再び手を翳して目を閉じる
(…何だ?読み取りずらい)
思考のシャットダウンをしている感じではない
お嬢さんの事だ、兄を身代わりにするのは嫌でしょう…
それなのに何故読み取れない?
…いや、読み取れないと言うよりは何だかピントが合っていない感じがする…
魔術師は深く潜る様にピントを合わせていくーー


…『じゃあ行ってくるね!ボンジュリー!』
大きな荷物を持ちながら、こちらに向かって笑顔で大きく手を振る女性が見える
(誰だ?…私の名を知る者なんて、もう誰も…)
…『あら、あなた紫色がとても似合うのね!』
魔術師のローブを私に突き付けながら意外そうな顔で、イタズラっ子の様に笑う女性
(…このローブは?)
魔術師は自分が今着ている紫のローブを見る
…『また!そんな考え方をしていたらダメよ!…もっと平和的解決を模索しましょ』
私の腕を掴みながら叱責する女性…
(…腕?)
魔術師は腕を掴まれるその感覚に覚えがあったー

ーー祭りの雑踏の中、兵士の配置に抜かりがなく王族の誰かを拐うのも簡単には思えず
『…いっその事、王族以外は全員消し去っても…』
と考えた時、何だか腕を引っ張られる感じがするのと共に、心がざわついたーー

その時の感じと同じ感覚がした
しかしーー
(…こいつは…誰なんだ?)
明らかに私を知っている感じがするのにーー

…『…ただもう一度だけ』
「っ!?」
今度は自分の声がして、心が掻き乱される
私は…何をこんなにも切実に願っていたんだ?

…『ただもう一度だけ……君に会えるのならば』

ーーその言葉で記憶が甦る
ボンジュリーはいつの間にか涙を流していた
「…トワ?」

そう…だ…、彼女の名前は…『トワ』
…『遥か東の方の国の言葉で、「永遠」って意味があるんですって。…何だかロマンチック過ぎて私には似合わないわよね!』
そう言って快活に笑うトワ…
そうだ、私がエンダードラゴンに拘っていた理由は何だった!?
何故忘れてしまっていたんだ!?
彼女を取り戻そうとしてたんじゃないか!

研究の為にチームに同行させられ、果ての都市に連れて行かれ、消息を絶った彼女を…
最初に彼女が所属していた研究チームを怨んで、現世に残っていた研究チームのリーダーを殺した
…次に同じ研究チームの人間を殺した
…次に研究施設の奴らを殺した
…次に研究施設に関わる者を殺した
終いには何もかもがどうでも良くなって、住んでいた魔法国家を滅ぼした
…それでも気分が晴れる事は無かった…
ボンジュリーは全滅させた国で暫くの間、トワと一緒に暮らしていた小さな家で過ごした

ーーもうこの頃からボンジュリーの心は壊れ始めていたのかもしれないーー

ある日、ボンジュリーはトワが買ってきた紫色の魔術師のローブを纏い、トワが育てていた今は枯れ果てたアリウムの花壇を暫く見つめると、国の全てを焼き付くして出ていった…

『研究をしなくては…』
『彼女は帰れぬまま果ての都市で生き延びているかもしれない』
『迎えに行かなくては…』
『彼女は帰れぬまま果ての都市で黒い影になってしまったかもしれない』
『影から戻す方法を研究しなくては…』
『影になってしまうシステムを解明しなくては…』
『エンダードラゴンの生態を、果ての都市の研究を、エンダーマンの生態を、エンダードラゴン討伐時の爆散エネルギーの研究を!』
『時間が足りない!!』
『…いや、彼女が居ないのに、私が人間であり続ける理由などない』
『禁断の書に手を出してでも!悪魔に魂を売ってでも!…彼女を取り戻せるのであれば、彼女がもう一度笑ってくれるのであれば、彼女が幸せになれるのならば…私なんてどうなっても構わない…』
『………トワ。もう一度…君に会いたい…』

「やめろー!!」
ボンジュリーが声を上げ、意識が戻る
(…今のはまさか)
目の前ではオラコ姫が涙を流しながらこちらを見ている
(…逆に読まれたのか!?)
思考をシャットダウンしていたんじゃない
こちらの思考を読みに来ていたんだ
それにボンジュリーがピントを合わせてしまった為に、契約時の魔力の暴走で欠落してしまった記憶を呼び起こされたのか…!?
…何だろう…魔力を使い過ぎた様に身体が重い
「…お嬢さん、あなたを帰します。但し…今見た事を吹聴するような事があれば…あなたを傷付けに行きます。…もうどれだけか解らない程人を殺めた私ですが、あなたを殺すような事は致しません。お嬢さんの家族を、ナイトを、家臣を…順に殺しにいきますからね…」
オラコ姫は涙を流しながら何かを言いたそうにしていたが、ボンジュリーはうんざりしていた
…同情された所で彼女が…トワが戻る事は無いーー

オラコ姫を異空間から帰した時にナイト君の邪魔が入ったが、弾き返してやった
今のボンジュリーは相手が何を言ってきても、子供の駄々にしか感じなかったし、時間が無限にあったとしても、今は時間が惜しい

異空間を閉じ、誰にも邪魔されない場所にして、ボンジュリーは呼び起こされた自分の記憶を少しずつ…ゆっくりと…紐解いて行った
彼女の一挙一動一言語を愛おしげに見つめる

涙は流れるに任せーー


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