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NOMELON NOLEMON「シャッターチャンス」/鮮烈な一瞬


2022/09/09、NOMELON NOLEMONの1stワンマンライブ「シャッターチャンス」in渋谷wwwxに行ってきた。※ライブネタバレ、楽曲の個人解釈を含みます。

良いライブだった。
終わった後に後ろに立っていた男の子が呟いた
「たぶんおれたちが思っているより、
 本気で音楽やってる」
という言葉が、きっと真理だ。

「小さな頃から音楽やバンドやライブが大好きだった セトリが良かった、ここの繋ぎが良かった、ここの照明が良かった、そんな小さなことも覚えていて、そのときの記憶がつらかった自分を支えていた」
だから自分の音楽を好きでいてくれるみんなにもそんな記憶をあげたいと思った そういう意味でのシャッターチャンスです しんどいときも生きていけるような記憶を 光を」


MCでそう話して泣いたツミキさんの震えた声が、手が、凶暴で美学と理知に氾濫した音楽を知っていたら驚いてしまうほど、人間味に溢れていて繊細できれいでした。

ツミキというボーカロイドプロデューサーは、前々から知っていた。すごく好きだった。
人間に歌いこなすことは難しい音の羅列や反復横跳びする音階、その中に潜む芯と規則性。
バンドを組むと聞いたときは、人間がこの人の曲を歌いこなせるのか、と強く驚いた。そしてバンドの曲を聞いた後、この人は人が歌うのための曲をも作ることができるのか、と、また強く驚いた。


「NOMELON NOLEMONは音楽のためのバンドです 売れるとか売れないとか関係なく ツミキ、っていう音楽人と、みきまりあ、っていう音楽人が二人合わさって最高の音楽を作ろう、っていう こんな音楽が日本のど真ん中で鳴っていたらどれだけ痛快だろうって思いながら、自分達が想う最高の音楽を作っていくバンドです」


そう言って鳴らされたINAZMAが最高でした。

ロックを「悲しい雨を凌ぐための一時的な暴力=イナズマ」に喩えたのあまりにも的確で天才だ、と、発表当時に震えた興奮。それを再び、しかもライブ会場で味わえる幸福はあまりに大きい。彼らが痛快だと信じた音が雨を刺激に変えていく、その瞬間を生音で味わえるなんて。



最後の曲は一番好きなnight drawだった。


レコーディング時にみきまりあが「何故だかわからないけれど涙が止まらなくなってしまい」、一発歌唱で収録された曲だった。
「みんなとまた会えるように歌います」というMCと共に始まった曲。だから、「またね」で終わる別れのうたが選ばれたんだと理解した瞬間ぼたぼたと泣いてしまい、涙に反射したスポットライトが眩しかった。

最後のフェードアウト、加速するアウトロ、ステージの中心で歌いながら崩れるみきまりあに続いて、へたり込みただギターを鳴らすツミキさんに、心筋が引き絞られるようだった。
誰かが緊急事態ではと駆け寄ることすら無粋なほど、眩しくて切ない音楽の摩擦がそこにあった。痛いコードと、哀しい別れと、愛しい記憶が収束していく中、最後の一音と共にふらりと立ち上がり頭を下げる二人を、ただ、見ていた。




「アンコールは無しで」

night drawを弾く前にそうツミキさんは言った。ライブは終わった。シャッターを押すかは自分の指次第だった。わたしたちに委ねられていた。彼らはずっと、ただ、音楽をしていた。
それでも。音楽を信仰する切実さに、力強さに、圧倒されるときが。自然と指が降りて息を呑む瞬間が、東京ど真ん中の小さなハコに燦然と存在していた。

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