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深夜の公園、銭湯の回数券

23~4歳頃のはなしだが、路上生活の方に声を掛けた事がある。
好奇心と、当時自身がモヤモヤとしていた事について、解決の糸口を模索していたはなしだ。

きっかけは、道端で倒れてる男性に声を掛けた事だった。
路上を歩いていた際、少し前の方で倒れて横になっている男性を見つけた。その少し先には杖が落ちていた。
私の前を歩いている人も、すれ違う人もなぜか素通りだったが、男性に近付くとその理由も何となくわかった。いわゆる路上生活者の男性だった。

しかし杖も落ちているし、倒れたまま動かないので心配になり声を掛けた。
私「おじさん、大丈夫ですか?」
男「あぁ、あぁ、問題ない。」
男「杖ありがとう、優しいな」
男「ついでにどうだ?」
道路の反対側にあったコンビニを指さす、おじさん。
私「ん?。。。あー杖を拾っただけなので、特に良いですよ。」
男「ビール買ってくれよ。」

男性がコンビニで何かお礼をするつもりなのか。と私が勝手に判断してしまったのが駄目なのだが
その男性の厚かましさにイラっとして、その場を直ぐに立ち去った。
声を掛け損をした、そんな気分だった。

それから数ヵ月したくらいだと思うが
深夜通りがかった、とある大きな公園。
その公園は綺麗に整備されていて、走っている人や、ベンチに座り語り合っている人など、深夜でもパラパラと人がいる治安の良い公園だ。

ひとりの若者がベンチに座り、おそらく風景画を描いていた。
少し離れた場所でその様子を見ている男性、路上生活者。

普段なら気にもしない場面だが、先日の倒れていた男性を思い出した。
その時の男性と、公園で様子を見ている男性は別人だが、どんな思考なんだろうか。どんな出来事を経てここに居るんだろうか。


その当時の私は、将来の事を考えている友人達にくらべ
何も目標が無かったし、見通しもなかった。服屋を開業する気もなかった。

目標や生きがいがあるとは言えない生活は
友人達のいる現実とドンドン引き離されていくようで
きっと何気なく周りが使っていたであろう「社会人」、「人生観」という整った言葉が澄んだ透明な釘となり、少しづつ私の心に打ち付けてられていた。

だから何かに繋がるような、何かの参考となるような指針が欲しくて、ずっとモヤモヤとしていた。

今思えば笑えるし、何やってんだろうと思うが
そんな焦りも混じった勢いで、ぼーっと眺めている男性に声を掛けた。
何て声を掛けたのかも覚えていないし、男性の最初のリアクションも覚えていないが、穏やかな人だった。

ただひとつ
「もしよければ、これまでどんなお仕事をされていたのか聞かせてくれませんか。」
そんな問いかけをした事は覚えている。

とび職の仕事をしていたが、大きなケガをしてタクシーの運転手に転職。
しかし気性が荒かったことや、職場のルールに締め付けられているような気がして嫌になり退職。持病も悪化し、仕事を転々とし借金も増え親族の援助と自己破産で借金は無くなり、今に至る。
うろ覚えだがそんな感じだったと思う。

働く事も、人と接する事も駄目になった。
いつか、とび職に戻れると考え、最後まで残していた仕事用の足袋を捨てた時に終わったんだと感じた。

ケガをしなければ、リハビリに集中していれば、タクシーを次の人生だと納得させていれば。

決して軽い気持ちで問いかけたわけではなかったが、男性の言葉ひとつひとつが重く、私はだまって聞くだけしかできなかった。

後悔があるのかとも思ったが、淡々と話してくれる雰囲気は
その男性の人生ではない、違う誰かの人生を朗読しているようだった。
それはきっと、重く印象に残った「駄目になった。」が全てへの諦めを示しているように感じたからだろう。

「兄ちゃん変わってるな。」
話しを聞き終え、無言になっている私にそう声を掛けてくれた。

何かお礼をさせて欲しいと言っても

話かけてくれた事が嬉しかった。だらっと長く感じる1日にプレゼントをもらった気分だ。ありがとう。

そんな回答だったと思う。

帰り際、最後にこんなニュアンスの言葉をくれた。

「こんな俺と仲良くしてはいけない。」
「悩みは明るい人間にぶつけて消してもらえ。」
「ここには今日たまたま居ただけだから、もう会わないが兄ちゃん良い事したな。」

想像以上の話しに気持ちが追い付かず、言われるがままというわけではないが
その男性の空気感に持っていかれ、あっさり気味に帰路に着いた。


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数日後だったか、そして理由も忘れたが
あの公園の徒歩圏内にある銭湯で、回数券を買うことになった。

折角なら。何だかんだ、あの男性が居るのではないかと思い公園へと向かったが、どこを探してもやはり居なかった。

それからほんの少しの期間ではあるが、色々な公園を散策した。
雑だと思われたくなくて、少しでも綺麗な状態で渡したかった回数券は、綴りが破れないように透明な袋に入れて持ち歩いた。

帰る場所がある自分が
路上の男性に、重い話をさせてしまっただけになった事に
後ろめたさを感じていた
そしてそれが、回数券で帳消しになればと考えいた。

その後、会えるわけもなく渡せずじまいとなったその回数券は
陽気な友人が自分自身へのプレゼントとして持ち帰った。

こちらから悩みをぶつけるではなく、こちらに自ら衝突してきて
後ろめたさという、悩みのような思いを明るい友人が消し去っていった。

「いい加減もういいでしょ、銭湯で会うかもよ。」

たしか、気が抜けるようなそんな適当な事を言いながら。

偶然だが、「悩みは明るいやつにぶつけて、消してもらえ。」あの男性が言っていた通りになった。



当時モヤモヤの中にあり、解決の糸口を模索していた私。

人生は予想が出来ない事が起きる、その対処で人生が大きく変わる。
誰とはなし、何を優先するのか。そんなつもりではなかった。が起こりうるのも人生。

その怖さを男性の話の中に感じながらも、当時の私はまだ未熟でこの体験を活かす事ができず、しばらくモヤは晴れず遠回りをしました。

その後もああすれば良かった、こうすれば。そういった事をついつい考えてしまっていた20代。

よく耳にする、何者かになりたかったわけではなく
だからこそ、何かが必要だった。

あれから約20年。今では店舗を構え様々な会話がうまれています。

あの頃は活かせなかった苦い経験は、大なり小なりの悩みをもった方と私を繋げる、ひとつのコミュニケーションに形を変え

そのコミュニケーションは結果としてほんの少しですが
私がどんな人間で、どんな考えで、何を大切にしているか。を知って頂くキッカケになっています。

セレクトショップなので、本来は商品の紹介をすべきなんですが
モノが溢れた現代は「どんな店なのか」を知って頂いたり、興味を持って頂く大切さもあると思い、こんな話を書かせて頂きました。

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