見出し画像

私たちの出した本『絲綢之路(世界語):Rakontoj pri la Silka Vojo kun Koloraj Bildoj』......佐藤隆介


『絲綢之路(世界語):Rakontoj pri la Silka Vojo kun Koloraj Bildoj』
朱 利栄(Zhu Lirong) 著、棗荘学院(Zaozhuang-a Universitato) 編訳、北京燕山出版社、2023年、248p、2310円(税込)

 中国山東省にある大学、棗荘(ザオジュアン)学院の教育は実践的だ。学生にとって親しみやすい教材も作るが、同時に、学生自身が本物に触れ、本物を作ることを重視している。エスペラントを単に教育と商業の手段ではない本物の語学としてとらえ、国際交流の実践の場として大学を提供している。本書のすべての原稿は、棗荘学院の学生17名によって翻訳された。エスペラント学科からはもとより、エスペラントに興味を持ち、学んできた学科外の学生も翻訳に加わった。22名の編訳チームが仕事を終え、7名の編訳委員会が出版をかけあい、本になるまで3年がかかった。
 原著『彩图 丝绸之路』は、シルクロードの歴史絵巻と解説からなる一般教養書である。内容は大きく以下の12部分からなる。シルクロードを概説する「文明大動脈」、遺跡・遺物等を紹介する「シルクロードの遺風」、中国と西方との関わりを概観する「魅惑のセレス」、古代王朝によるシルクロード開拓を描く「大西域への道」、シルクロードに関わりのある人物・文学・文化財等を紹介する「胡笳(こか)十八拍」、中央アジアの各民族を追う「ソグドの九王」、ゴビ砂漠方面を扱う「参天可汗道」、北宋時代以降シルクで栄えた江南地域の文化を伝える「四海の守護神媽祖(まそ)」、東方見聞録より「マルコポーロ来華」、永楽帝の遠洋航海事業「鄭和(ていわ)の大航海」、清朝以降を扱う「虎門アヘン事件」、現代を扱う「新しいシルクロード」。80の人物、70のできごと、40の歴史書に言及し、周辺諸国についてもくまなく資料を集め、日本については遣唐使を紹介、その仕組み、訪問時の様子や日本の詩歌に残る影響について書いている。
 私は校閲として、原文の意図が翻訳に正しく反映されているかのチェックや、用語の翻訳の妥当なものへの統一をおこなった。その作業には養蚕(ようさん)、紡織(ぼうしょく)、染織(せんしょく)についての基本的な知識のみならず、機織(はたおり)、建築、当時の街の構成に関する理解も必要となった。エスペラント訳で苦労したのが、古文書の名称である。佐々木照央(てるひろ)先生の本の訳注に見つかることがあり、それを採用することができた。また時代によって仕組みの変わる行政区分や官位の翻訳の辻褄(つじつま)合わせにも苦心した。さらに、朴基完(パク・キワン)先生とAlessandra Madella先生による翻訳のブラッシュアップ、そこに原著どおり絵が加わり、シルクロード上のあらゆる人々に一読していただきたい一冊となった。
 棗荘学院の学生には、入学時点では山東省から出たことがない者も多い。家は牛を飼っていたり、旅館をやっていたり、魚を養殖していたりする。現代中国社会の変化も目まぐるしいが、5000年前から始まるシルクロードの歴史と地理的広がりはまるで夢のようだ。そして自分たちの翻訳が、シルクロードの両端、ヨーロッパで、そして日本で読まれているとなれば、彼らにとってどれほどの驚きだろう!すでにポーランドに留学中の者もいるが、多くが山東省にとどまっている。読んでもらえるからには面白く、と懸命に訳した彼らに「Ni legis!」の声が届くとうれしい。

※上記の本は、日本エスペラント協会図書販売よりご購入いただけます。
図書販売 | 一般財団法人日本エスペラント協会 (jei.or.jp)

『La Revuo Orienta』2023年8-9月号p5から

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?