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#031 アンチイノベーション

 インターネットやスマートフォンは、世界を変えた技術革新だということに、異論のある者はいないだろう。

 そして、それらは存在そのもので世界を変えたのではなく、誰もが利用可能であるからこそ、社会に大きな変革をもたらすことができた、ということにも同意であろう。

 さてここに、マネタイズによだれを垂らす犬がいる。座敷犬なら「さんぽ」の一言で狂喜乱舞するのだが、彼等の条件付けは一味違う。フォロワー数と言えば耳がぴんと立ち、副業と言えば尻尾がぶんぶん回って、Fireといえばワンともキャンとも鳴き散らす。

 スマホひとつで今や誰もがクリエイター。コンテンツプロバイダは、さながら飼い主だ。あなたの才能が世界に見つかり、華々しくも賃労働を抜け出すという、夢の浮き橋だ。ほとんどの者にとっては永遠に辿り着けない、ぶら下がった人参に過ぎないが、欲望を原動力に走らせ続けるという訳だ。

 インターネットの原野を知るものは、あの頃を思い出してみてほしい。すけべと暴言の無法地帯だったかもしれないが、「ここから先は有料です」なんて立て札は無かった。だからこそ、教科書なんて買わなくても知識が得られる、あらゆる人に開かれた世界の夢を見ることができた。

 もっとも、無料であることの弊害も存在した。というより、違法なコンテンツが蔓延り、悪貨が良貨を駆逐寸前まで追い込んだ。もちろん、そのことを忘れてはいないが、本稿の意図するところはそこではない。

 月収100万円を謳う配信者が、その秘訣を教える等と吹き散らかしても、オンラインサロンとやらに払う金があるのなら、本屋に行く方が余程いい。情報は、発信者にどのようなバックグラウンドがあって、どのような意図・文脈で言っているのかが重要だ。見目麗しいルアーに食いついたところで、釣り人の晩飯になるだけなのである。

 こうまで言うのは、目が眩む情報の数々は、アンチイノベーションの可能性があるからだ。競馬の予想屋と変わりもしない、そのうえ年季では大幅に劣るであろう馬の骨が、人生の必勝法でも編み出したかのような顔をしてのさばっている。弱者をみつけて搾り取る不埒な輩は、インターネットを後退させている自覚を持った方が良い。

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