あしたのひかり~Twilight Daylight~

普段、写真展や美術館に足を運ぶ機会は少ないのですが、とても気になっていた写真展だったので先日久しぶりに都内に出かけてきました。

日本の新進作家Vol.17として出展してされている岩根愛さんの作品を特に楽しみに

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岩根愛さんを知ったのは、TBSラジオで放送していた久米宏さんの番組「ラジオなんですけど」でゲストとしてお話しされていたのを聞いてから。その時は、かつて福島の双葉町の方々がハワイに移民として渡り、その後盆踊りが「ボンダンス」として継承されているというとても不思議な縁に着目して、ハワイの日系移民の方々と福島のルーツを探り写真を撮り続けているというお話しをされていてとても興味を惹かれたの覚えています。そして、2011年福島が震災でとても大変な被害にあった際、避難先としてハワイの方々がとても暖かく迎え受け入れてくれたのだと。

そんな特別なハワイと福島を結ぶルーツの集大成の写真集でもある『KIPUKA』という作品、とても素敵です。

ハワイは活火山の多い火山島、これまでの歴史の中で幾度となく噴火を繰り返し溶岩が人々の築き上げた居住地をいとも簡単に飲み込んでしまいます。しかしハワイの方々のスピリッツである『KIPUKA』という概念は、歴史は塗り替えられても、いつかまたその上に新たな芽が出てくるという考え方だそうです。

写真展の話に戻りますが、そのような価値観に触れてきた岩根愛さんの今春に撮った新しい作品の数々が展示されていました。『あたらしい川』というタイトルで、この春人影なくライトアップも消えた桜、そして桜の下で撮影された各地の伝統芸能の舞などの写真が見事なひかりの構成で映されていました。福島の避難区域内のみならず、全国の桜の下から人が消えた2020年。ライトアップが消えた桜の下は、人間と獣の境界が曖昧となり、暗闇を取り戻した獣たちの、歓喜の呻き声に満ちていたといいます…

私はそんな作品を観ながら終始、こんな風に捉えられるんだ!こんな風に表現できるんだ!へー、ほー、と驚き続けていました。

ただ同時に、ひとたび太陽の光を浴びたその場所は、毎年の桜並木の風景と変わらない場所なんだと思うところもあり。ひかりと暗闇の対比、私の中では日々当たり前に見えるものやあるものと、見えない何かと対峙する恐怖心が表裏一体に表されているように感じました。こんな物事の見方や価値観なんて、きっとこのような形で春を迎えなかったら、きっと体験したことのない未知の恐怖と隣り合わせにならなければ気が付かなかったことなのかもしれないな。そんなことを感じました。

これも大きな歴史の中での転換点であると信じ、慎重さを持ちつつもフラットでいることの大切さ、新しい芽を見つける『KIPUKA』のような感性を持っていたいなと思います。

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